逆転結婚~目が覚めたら彼女になっていました~

「お兄ちゃん、まだ言わないつもりなの? その子の事」

 一緒の席に座っている麗美が純也に尋ねた。
 麗美の今日は正装して、紺色のワンピースに身を包んで、紙も綺麗にセットしている。

「いずれ話すときがくる。その時まで、そっとしておいて欲しいから。この子には、何の罪もない。九条家に護られていれば、安全だから」
「そうね。産まれながら、すごい宿命背負っているものね」

 この赤ちゃんは、彩が産んだ子供である。
 男の子で名前は太陽(たいよう)と名付けられた。
 産まれた日に、太陽が暖かく輝いていた事からそう名付けられた。
 子供を産むと、直ぐに里子に出され彩人はほんの数時間しかいられなかったが、彩はとても穏やかで「愛しているよ」と言っていた。


 あれから彩は裁判が行われ、精神状態からマトモではないと判断され罪に問われる事はなかったがずっと病院の中に閉じ込められている。
 出産しても育てる事は許されず、約束通り純也が引き取り九条家の養子として籍に入っている。
 産まれながら殺人者の子供と言う宿命を背負っている太陽だが、何も知らないまま幸せに育ってほしいと純也は願っている。

 まだこのことをを知っているのは、純也と麗美だけである。



 
 結婚式の最後に身内で集合写真を写した。
 みんながが幸せそうな笑顔に包まれ、ようやく訪れた本当に幸せのスタートとなった。


「優衣里ちゃん、体調は大丈夫? 」
 麗香が心配して尋ねてきた。
「はい、大丈夫です。ドレスを着ると、ちょっと目立っているようでしたけど。誰も気づいていたなかったようです」

 優衣里は現在妊娠5ヶ月。
 自社ビルが完成するまでは、子供は作らないと言っていたが一足先に来てくれたようだった。
 自社ビル完成の方が早く、子供が生まれるのはもう少し先になる。
 しかし授かったのは双子らしく、どうやら男の子と女の子両方がいるようだ。

「自社ビルも完成したし、麗人もこれから副社長として色々大変だが。家族の事もしっかり守ってくれよ」
 
 ポンと、麗人の肩に手を置いて鷹人が言った。

「大丈夫だよ、父さん。これだけ長い年月、想い続けてきたんだ。それに、僕は一度生まれ変わているからさっ」

 え? と、驚く鷹人を見て、麗人と優衣里は顔を見合わせてクスッと笑った。

 
 一度は悲惨な結婚を選び自ら命を絶った優衣里。
 自暴自棄になり優衣里の後をって自ら命を絶った麗人。

 2人の想いを叶えたくて力を貸した百里。

 過去をやり直す事はできないが、どこかに奇跡という名の希望があるとしたらきっとこれは2人の心からの愛の力が引き起こした事なのかもしれない。

 愛と憎しみは背中合わせ。
 愛するが故に憎しみが増す事もあるのかもしれない。
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