さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 ということは、修蔵以外には考えられない。麻美が脅しに使ったことも考えられるが、彼女に実際そんなことはできるはずがない。当主を恐れているのは彼女も一緒なのだ。
 修蔵の立場ならば容赦なく何でもできる。だからこそ律樹は政略結婚と結び付けて光莉を守ろうとした。
 けれど、修蔵はさらにその裏に手を回している。修蔵の前では正義や正論や正当な手段など通用しない。平気で人を陥れ入れる。脅しだけで済むとは思えない。ほんとうにすべてを潰そうとするだろう。
 修蔵のことを考えると、ぞくりと悪寒が走った。
「きっとこれからも何かあるたびに脅される。律樹さんに告げ口をすれば彼に何をされるかわからない。私が一番守りたかった父はもうこの世にはいない。父の代わりに守りたかった山谷食品は……前のような姿ではなくなってしまった。このままではただの奴隷でしかないわ」
 それなら、なんのための政略結婚だったのだろう。結局、そこに考えが行き着いてしまうのだ。
 常盤家に来てから、本当の夫婦になりたいと願い、律樹となら叶えられると信じて、至らないながらも努力してきたつもりだ。
 律樹のことは愛している。彼とこれからも一緒にいたい。乗り越えていきたい。その気持ちはたしかにあった。けれど、この状況では、常盤家の中で出産してからの未来が思い描けない。きっと今のままでは律樹も光莉も共に不幸になる。そんな悪い予感しか描けなくなってしまった。
 戻っても地獄、逃げても地獄。
 それなら――。
 少しでも未来を開ける可能性がある道を選びたい。
「連れ出して」
 光莉は意を決して告げた。
「本気?」
 颯太の方が戸惑った顔をしている。
「どうしてそんな顔をするの。冗談だった?」
「まさか。そこまであなたに意地悪する理由はないし。でも、いいの? あの人のことを諦めても……愛しているのは、本当だったでしょ」
 諦めたくはない。騙すことはしたくない。
 律樹との子どもを授かったことを、誰よりも喜んでほしかった。けれど……。
「愛しているから……愛しているからこそよ」
 泣きそうになるのを我慢して、光莉はそう告げた。颯太は意表を突かれた顔をする。
「あなたなら、夫婦で手を取り合ってこれからも頑張っていくつもりだって綺麗ごとを言うかと思った」
 責任を感じたのだろうか。颯太はそう言って肩を竦めた。
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