さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 あんなに辛そうに訴えてくる光莉を見ていたら引き止めることなんてできなかった。今すぐに光莉を自由にしなければならない。離したくないという想いの傍ら、そんな感情に駆られた。
 幸雄が亡くなってからの光莉の様子を見て、律樹はそう覚悟をしていた。父親の死だけではない。彼女は明らかに家の中で身の置き方に悩まされている。
 律樹に心配をさせまいと、何も打ち明けてはくれない。白井に聞けば、麻美からの虐めはエスカレートしている様子で、気分が塞いだまま、体調が芳しくないようだという話だった。
 光莉を守りたくて選んだ結婚だったが、自分が選んだ道は間違っていただろうか。そんなふうに振り返る。もっと自分に力があれば、光莉に苦労をさせずに済んだかもしれない。今は必死に根回しをすることくらいしかできない己の無力さが憎らしい。
 律樹は光莉のことを案じながら、修蔵に光莉との離婚について願い出た。
「離婚だと? ああ、光莉さんがとうとう音を上げたのかね。思い知ったか? あのお嬢さんでは務まらなかったということだ。まったく。とんだ茶番に付き合わせてくれたものだな」
 執務室のプレジデントチェアに深く背を預けたまま、修蔵はふんと鼻で笑う。
「光莉を悪く言うことはいくらお父さんでも許しません」
 律樹がまっすぐに糾弾すると、修蔵はすぐに興ざめしたように真顔に戻った。
「ふん。おまえに何ができるというのだ。で、山谷食品の件はどうするつもりだ。あの女が出て行くというのなら、もう目をかける必要もないだろう。経営の建て直しは見事だった。だが、おまえはまだまだ甘い。そろそろ手を引いたらどうだ」
 修蔵はさも愉しげに微笑を刻んだ。
「お父さん、あなたは……」
 律樹は言葉を失う。まだ修蔵は何かを企んでいる。手中にあるのだと思い知る。憤りで身体が震えだした。
 獣が睨むような目をしていたかもしれない。修蔵は一瞬、意外そうな顔をしたあと、ふむとため息をつく。
「離婚は構わない。だが、跡継ぎの搾取は断じて許さん。あの女が律樹の種を盗んだ可能性は否めない。あの女の動向はしばらく確認させてもらうぞ。万が一、子を孕んでいたとしたら、子どもだけは奪い返さねば」
 律樹は修蔵の冷酷無情さに閉口する。
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