さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
「正気ですか? どうしてそこまで執着するんですか。俺がここに残ればそれで済む話ではないですか。させませんよ、そんなことは。彼女が一体どんな想いで山谷食品を守ろうとしたか、心のないあなたには理解できないでしょうね」
 小さな身体で精一杯強がっていた彼女を、大きな瞳から今にも溢れ出しそうな涙をこらえていた彼女を、それでも笑顔を絶やさずに頑張ろうとしていた彼女を、どうしたらそんなふうに痛めつけることができるというのだろう。
「あの女に執着しているのはおまえではないか」
 修蔵は冷ややかに言い放った。
「あなたには心から愛した人はいないのですか?」
 睨み合いが続いた。
 修蔵の顔から興味の色が失せた。
「もういい。おまえは他に見繕って跡継ぎを産ませる女を連れてきなさい。そのへんの野良猫ではない。良家の娘だ。それで手を打とうじゃないか」
 どこまでも悪魔のような男だ。この男が自分の父親だと思いたくない。
 母が亡くなって施設に入るしかなかった自分を引き取って何不自由なく大学を卒業できるまで面倒見てくれたことには感謝をした。だが、そこには息子への愛情があったからではないということを改めて思い知る。今日この日ほど父親をこれほど憎く感じたことはない。
「お父さん、俺はあなたが不正に関わっていることを知っていますよ。いつか、痛い目を見るのはあなたの方だ」
 修蔵は肯定も否定もしない。
「ばかばかしい。不正だと? 思い違いも甚だしい。私は当主として代表として、これまで当然のことをしてきたまでだ」
「それで苦しむ人間がいることも、当然だと言いたいのですか?」
「おまえは甘い。甘すぎるのだ。常盤家次期当主としての自覚があるのなら、よく理解することだ。今のおまえごときに何ができるというのだ」
 ただそれだけ言い放つと、チェアごとくるりと律樹に背を向けた。
 律樹は歯噛みしながら、修蔵と取引をしたときの話を思い浮かべていた。

 律樹が光莉に政略結婚と山谷食品の買収を持ち掛ける数ヶ月前。
 律樹は、修蔵の差し金で山谷食品に危機が訪れていることを知った。その折りに、修蔵が数々の不正を重ねている疑惑が浮かび上がってきたのだ。
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