さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 せめて、山谷食品を父の好きにさせないようにすること、父の魔の手から光莉を逃がすことくらいしか律樹にはできない。
 修蔵との話のあとで、自分の無力さに虚しくなり、律樹はリビングのソファに乱暴に身を投げ出し、頭を抱えた。
「よかったじゃないの。女主人を務めるなんてやっぱり荷が重すぎたのよ。あの女には」
 麻美が愉快そうに笑う。くすくすと耳障りな声だった。
「わざわざ立ち聞きしていたのか?」
 律樹は麻美を睨んだ。
 光莉がどんな想いで決断したのかを考えたら、彼女と同じ言葉を簡単に口にしてほしくなかった。
 律樹は光莉のためにどうすればよかったのか、葛藤に苦しみ続ける。このまま終わるわけにはいかない。光莉を守るためには、これからやるべきことをし尽くさなければならない。
「お義兄さんは何も知らなかったでしょう」
 ほら、と突き付けられた画像には、颯太と光莉が仲睦まじく裏庭の縁側で過ごしている様子が映し出されていた。律樹はそれを見てショックを受けるどころか、腑に落ちていた。むしろ、ホッとしてもいる。彼女は、一条の光を見つけたのかもしれない。
「好きな人……か」
 自分は一体何をやっていたのだろうか。この忌々しい箱庭にどうして光莉を連れてくることが正解だと思ったのだろう。あのときはそうするしかないと思った。だからこそ、律樹は常に光莉を気にかけていたつもりだったが、それは傲慢な考え方だった。
 結局、光莉を閉じ込めておいたのは律樹なのだ。傲慢な自分の行動が修蔵のDNAを受け継いでいる証に思えてゾッとする。光莉の笑顔を奪ったのは……修蔵ではなく、常盤家の人間ではなく、自分だったかもしれない。
 律樹は湧き上がる不甲斐なさを握り潰すように拳をギュっと握りしめた。
 光莉が颯太に惹かれるのも無理はないだろう。彼女は癒しと安らぎを求めていた。
 彼女を守るつもりでいたのはただのエゴで、傷つけていたのは、自分のせいだった。
 彼女が自由を望むのなら、それが彼女の願いならば、光を見つけたというのならば、好きな人と幸せになる未来が欲しいというのなら……見守ることが愛ではないだろうか。
 しかしそう言い聞かせてすぐに納得できるほど、律樹の光莉への想いは簡単なものではなかった。
 自分は傘になり、盾になり、陽だまりになると誓った。彼女を愛している以上に、彼女を守りたかった、はずだった。
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