さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 窓を開けると、すぐ目の前に日本海の濃紺の海がきらきらと煌めいているのが見える。湿った風と潮の匂いを感じながら、庭の日陰に残った雪の合間にぽつぽつと伸びはじめた土筆(つくし) の姿を発見する。季節は冬に別れを告げ、あたたかな春を迎えようとしていた。

* * *

 颯太はその後も定期的に光莉に会いにきた。
 てっきりあの日が最後だと思っていたのだが、これは忍びとしての務めだといって彼はふらっと現れ、その都度、互いに近況を報告し合った。
 颯太は当然のように律樹の話題は出さなかった。ただ、常盤家の現状や光莉の所在がバレていないかなど、見知った限りのことだけを教えてくれるだけだった。
 早苗のところに身を寄せてからまもなく一ヶ月が経過するが、今のところ常盤家が光莉に対して何かをしようというそぶりはない。律樹にきちんと別れを告げたことで、きっと律樹が光莉を修蔵から守る防波堤の役割を担ってくれているのかもしれない。
 本当は律樹が今どうしているか知りたい。遠くからでいいから顔が見たい。せめて声が聞きたい。少しでも気を抜くと未練が募った。
 当然そんな権利は光莉にはない。それに、律樹のことを必要以上に思い浮かべると、どうしても胸がざわざわして苦しくなってしまう。恋しくて呼吸ができなくなりそうになる。だから今はとにかくなるべく考えないようにする時間が必要だった。
 颯太は埼(さい)玉(たま)の方で新たに腕のいい庭師に師事し、その庭師の弟子として働きながら造園技能士の資格の勉強をしているらしい。
 常盤家を出る際、彼はしばらく遊べる資金があると言っていたけれど、仕事の話になると彼は活き活きした顔をしていたし、本来、働くのが好きなのだろう。
 颯太がよくいう『足抜けをした同志』としては嬉しく思う。光莉も新しい人生をスタートさせなければ、という勇気をもらった。
 光莉はというと、早苗と一緒にハーブの手入れをしたり野菜を育てたりしながら、のんびりと家事をさせてもらい、毎日一緒にふたりで食卓を囲んだ。
『うちは息子だけやから、本当に娘ができたみたいで嬉しいわ』
 居候している身なので、早苗がそう言ってくれるのが幸いだった。
 妊娠の週数が進むにつれ、つわりがひどい日もあったが、それも日に日に落ち着いていき、お腹のふくらみもわかるようになっていった。
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