さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
しばらくすると、颯太は仕事が忙しくなったのか顔を見せることが少なくなり、早苗との暮らしが馴染んで日々を過ごすうちに安定期を迎え、やがて胎動を感じるようになった。
我が子への愛おしさがよりいっそう募っていく中、この子を奪われてはならない、この子だけは幸せにしてあげなければならない、という母性が強まっていくのを同時に感じていた。
いつまででもここにいていいと早苗は言ってくれているけれど、甘えてばかりいるわけにはいかない。本来ならもっと早く出て行かなければならないところだったのに、身重の光莉を気遣い、早苗が引き留めてくれたのだ。出産が終わって落ち着いたら、いくらもない貯金と相談しつつ、新居と働き口を探そうと思っている。
ふと、幸雄の顔が思い浮かんだ。父のお墓参りには行きたいし、空き家になっている自宅の様子を見に行きたい。山谷食品のことも今どうなっているのか気にかかる。けれど、迂闊に近づくことはできない。できれば、いつかは実家に戻りたいと考えているのだが、それはまだもう少し先の話になるだろう。
「――それ、重たそうだね。お荷物お持ちしましょうか?」
ある日、久方ぶりに颯太が顔を見せた。心なしか前よりも日に焼けて肌に色がついていた。
気温が三十五℃以上もある暑い夏の日、臨月に入ったばかりのときだった。
颯太は光莉の荷物を半ば強引に奪ったあと、手に持っていたラムネ瓶を二本目の前に出し、そのうちの一本を分けてくれた。
さっそくふたりして喉を鳴らすように飲み干した。
「はぁ。生き返る!」
光莉はくったりと息を吐いた。額や首筋にまでぐっしょりと汗が流れていく。
「このあたりは風の通りがいいから気持ちいいけど、それにしても暑いもんね。妊婦さんは特に熱中症になりやすいって聞いたよ。気をつけないと」
「ありがとう」
出産 予定日は来月、九月中頃だ。町の助産院に通い、具体的な出産プランを相談した帰り道だった。
出産は何が起こるかわからない。万が一のことがあった際、大きな市の病院の方が医療体制は整っているかもしれないが、まだ光莉は常盤家のことを警戒している。あれからもなるべく人目につかないように気を配っていた。
ラムネを片手に、向日葵と秋桜が植樹された段々畑の中を歩きながら、颯太が何の気なしに尋ねてきた。
我が子への愛おしさがよりいっそう募っていく中、この子を奪われてはならない、この子だけは幸せにしてあげなければならない、という母性が強まっていくのを同時に感じていた。
いつまででもここにいていいと早苗は言ってくれているけれど、甘えてばかりいるわけにはいかない。本来ならもっと早く出て行かなければならないところだったのに、身重の光莉を気遣い、早苗が引き留めてくれたのだ。出産が終わって落ち着いたら、いくらもない貯金と相談しつつ、新居と働き口を探そうと思っている。
ふと、幸雄の顔が思い浮かんだ。父のお墓参りには行きたいし、空き家になっている自宅の様子を見に行きたい。山谷食品のことも今どうなっているのか気にかかる。けれど、迂闊に近づくことはできない。できれば、いつかは実家に戻りたいと考えているのだが、それはまだもう少し先の話になるだろう。
「――それ、重たそうだね。お荷物お持ちしましょうか?」
ある日、久方ぶりに颯太が顔を見せた。心なしか前よりも日に焼けて肌に色がついていた。
気温が三十五℃以上もある暑い夏の日、臨月に入ったばかりのときだった。
颯太は光莉の荷物を半ば強引に奪ったあと、手に持っていたラムネ瓶を二本目の前に出し、そのうちの一本を分けてくれた。
さっそくふたりして喉を鳴らすように飲み干した。
「はぁ。生き返る!」
光莉はくったりと息を吐いた。額や首筋にまでぐっしょりと汗が流れていく。
「このあたりは風の通りがいいから気持ちいいけど、それにしても暑いもんね。妊婦さんは特に熱中症になりやすいって聞いたよ。気をつけないと」
「ありがとう」
出産 予定日は来月、九月中頃だ。町の助産院に通い、具体的な出産プランを相談した帰り道だった。
出産は何が起こるかわからない。万が一のことがあった際、大きな市の病院の方が医療体制は整っているかもしれないが、まだ光莉は常盤家のことを警戒している。あれからもなるべく人目につかないように気を配っていた。
ラムネを片手に、向日葵と秋桜が植樹された段々畑の中を歩きながら、颯太が何の気なしに尋ねてきた。