さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 早苗の家の玄関に到着すると、少し遅れてやってきた颯太が、荷物を玄関先に置いてくれた。
「送ってくれてありがとう。荷物も助かったし、ラムネも美味しかった」
 それじゃあ、と別れを告げようとする光莉に、颯太は一歩距離を近づけてきた。光莉は思わず後ずさったのだが、その拍子に上がり框に躓きそうになり、颯太に腕を掴まれて倒れないで済んだ。
「最後にもう一度だけ言っておくよ。本気だから、俺は」
 颯太は真剣な表情で訴えてくる。彼の想いを無下にするみたいで、光莉はそれ以上はもう否定はできなかった。
「それじゃあね、光莉さん」
 捕まれた腕がじんとする。離れたあともそこは熱を帯びていて、颯太の想いの余韻を刻みつけていったみたいだった。
 また会いにくるといって颯太は帰って行った。
 颯太の気持ちは嬉しい。けれど、忘れることなんてできるはずがない。
 ずっと好きだった。
 今も変わらず愛しているのだから。
 大丈夫。大丈夫、と何度も呪文のように唱える。
 光莉は律樹のことを思い浮かべながら、響く胎動に目を瞑り、そっとお腹を撫でるのだった。

* * *

 光莉が常盤家から出て一ヶ月が過ぎた頃。律樹は光莉の現状を改めて知った。光莉は金沢に帰ったのだと思ったが、それよりもっと北の方に暮らしているようだ。元従業員の女性の家に世話になっているらしい。度々男が出入りしているということだが、おそらくそれは颯太のことだろう。想定していたことだが、改めて突き付けられる事実に、律樹は歯噛みした。けれど、彼女がせめて幸せでいてくれるのなら、それでよかった。
 彼女を守るつもりだった行動はすべて裏目に出た。誰よりも大切に想っていた彼女を幸せにできなかった。律樹は己の不甲斐なさを省み、光莉を家の都合に巻き込んでしまったことを改めて申し訳なく思いながら、彼女がとにかく幸せでいてくれることを願っていた。
 何か困ったことがあったら、力になれることがあれば、夫婦という関係ではなくても、律樹は光莉のことを助けたいと考えていた。
 修蔵が自分に都合の悪い存在を徹底的に潰す性格を律樹はよく理解している。一抹の不安が胸をよぎり、律樹は秘密裏に調査機関を使って光莉の状況を探っていた。彼女にとっては不本意なことかもしれないが、どうしても何もしないではいられなかった。
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