さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 調査をはじめてからまもなく、律樹は光莉が妊娠している事実を知り、ショックを受けた。一方で、ある疑問が生まれる。颯太とそういう関係になっているかもしれないということは、麻美の証言と写真によって知っていたが、妊娠の時期、出産予定日などを考えると、どうにも腑に落ちない。
 たった一時だが、たしかに光莉と自分は気持ちが通じ合っていた。光莉は二股なんて器用なことができるタイプではない。
(まさか――)
 あの頃、律樹と光莉は想いを通わせあっていた。政略結婚というはじまりではあったが、夫婦として結婚式を挙げられるように、お互いに同じ目標を持って動いていたはずだった。
 そんなとき光莉がいきなり別れたいと言い出したのはなぜだったのか。光莉はどうして自分から出て行ったのか。父親の死のショックだけでは説明がつかない。修蔵に離婚の話を申し出た際、光莉のことを見下していた修蔵の表情がやけに脳裏にちらつく。
 夏の名残を感じさせる蝉時雨の中、律樹は改めて今までのことを振り返る。それから律樹は突き動かされるように、常盤グループの過去の取引について洗い直し、より詳しい調査をはじめた。
 光莉の現状を知ってから更に二ヶ月が過ぎる頃、新年度の忙しい合間を縫い、決定的な不正を見つけた律樹は、その裏付けのために行動を起こすことにした。修蔵の悪行を暴くのは、一筋縄ではいかないことだろう。
 ある日、会議を終えた律樹は、側に控えていた秘書の水(みず)澤(さわ)という男に耳打ちをした。
「明日から、関連会社の下請け企業により詳しく聞き取りをはじめたい。ついてきてくれないか」
「……承知しました。動かれるのですね?」
 水澤は律樹が修蔵の不正について調べはじめた際、直接雇った秘書だ。元は関連子会社の重役を務めていた。常盤グループのやり方に疑問を抱いていた彼が本社を訪れ、修蔵に直談判にきたことがある。幸い、修蔵は興味のない人間の顔は覚えていなかった。律樹はそうして次々に協力者を見つけて手を広げ、人脈を築き、引き込んでいった。
 水澤は険しい表情を浮かべ、律樹の決意を問うた。
「ああ、そのために跡継ぎになることを表明したようなものだ」
 律樹は修蔵の動向を確認しながら、水面下で常盤家や常盤グループにおける不正疑惑を突き詰めてきた。その傍ら、常に光莉のことを気にかけていた。
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