さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 何としても、彼女を迎えに行かなくては。今すぐには無理でも、一日でも早く、そのためには行動を起こさなければならない。律樹はある覚悟を固めていた。

◇9 愛しい金木犀の香り

「光莉ちゃん、ちょっと買い物に付き合ってもらえない?」
 出産予定日を二週間後に控えたある日の朝、台所で片付けをしていると、早苗に声をかけられた。
「もちろんいいですよ。何を買うんですか?」
「これから出産に向けて必要なものをそろそろ用意しないといけないじゃない? リストアップしてみたのよ。ベビー服とか玩具なんかも見ておきたいし。今はどんなものがあるのかしらね」
 早苗が光莉の出産を楽しみにしてくれていることが嬉しくて、つられて光莉まで気持ちが浮上する。たしかにこれから必要なものはたくさんある。雑誌やネットなどで情報を収集しているだけで、なかなか外には出歩けていない。必需品ならばすぐ近くの店であらかた揃えられるし、この先のことを考えると贅沢をする余裕はない。何よりあまり人の目に触れたくないという警戒心が常に先立っていた。
 光莉が申し訳なさそうに表情を曇らせていると、早苗が光莉の手を引っ張った。
「こっちへいらっしゃい」
「えっ……早苗さん?」
「気になるなら、変装していきましょうよ。楽しそうじゃない?」
 手を引かれて早苗の部屋に行くと、ウィッグ、つけまつげ、サングラス……普段着ないような派手な洋服。それらがテーブルの上にずらりと並んでいて、光莉は唖然とする。
「近所のみんなから集めたものだから、大したものはないけれど……ね」
「さすがにこれは……逆に目立つかも」
「だめかしら」
 光莉はううんと首を横に振った。早苗の気持ちが何より嬉しかったのだ。
 さっそくふたりはおめかしをして出かけることにした。しっかり化粧をして、帽子と眼鏡をするだけでもだいぶ違うだろう。何より早苗が隣にいてくれるということが心強い。
 ベビー用品メーカーの中に入り、早苗は率先して光莉に必要なものをかごに入れていく。
「本当のお母さんみたい」
 母が生きていたら、今頃こうして一緒に買い物をしていただろうか。
 高校生のときに母が急逝した。そして、父も亡くなってしまった。律樹とは離れてしまった。光莉はますます孤独を感じてしまう。しっかりしなければ。自分のお腹には子どもいる。守らなければいけないのだから。
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