さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
「光莉ちゃん」
早苗に声をかけられ、光莉はハッとする。気を抜くと考え事をしてしまう。
「ちょっと深呼吸しましょうか」
「え?」
「いいから、肩の力を抜いて、ね?」
早苗に言われるがまま、ふうっと呼吸を整える。
「輪島は、あなたのもうひとつの故郷と思いなさいな。そして私のことは第二の母だと思って、何でも頼りなさい。私もあなたのことを娘のように思ってるんやからね。だから、甘えられるのは嬉しいのよ。遠慮される方がずっと寂しいものよ」
「早苗さん……」
彼女の言葉は何よりも心強かった。
「さ、ベビー服、見てみましょうよ。可愛いのたくさんあるわねえ」
早苗が声を弾ませ、光莉の腕を絡める。
光莉は思わず頬を緩ませた。久しぶりに何もかも忘れて買い物を楽しんだ。
金木犀の香りが漂いはじめる頃――。
光莉は出産予定日どおりに男の子を生んだ。
葵(あお)生(い)と名前をつけた。庭に咲いている葵の花が、夏から秋へと移り変わる清々しい青空の下、まっすぐに空へと伸びた茎や葉の間から上を向いて空を仰ぐように咲いているところを見たときに思いついた。
俯きがちな気持ちをすくいあげてくれるような鮮やかな赤色・桃色・黄色・橙色・紫色・白色……色とりどりの花に心を癒された。
この子の人生がまっすぐに光りが降り注ぐ道でありますように、彩りに満ちた人生でありますように。胎動を感じながら夏の日に想いを馳せていた。
生まれたてのときは、まるでおさるさんのような人間らしくない顔をしていたのに、ひと月経過する頃にははっきりと律樹の面影を宿し、光莉はたまらなくなって泣きながら我が子を抱きしめた。
あなたが生まれてきてよかったと思える人生でありますように、母としてできることを尽くそう。光莉は心に誓った。
それからは怒涛の日々だった。
数時間ごとに起こされ、眠れない中で母乳をやり、頻繁におむつを替え、泣く理由がわからず途方に暮れ、不慣れな育児に追われる日々。
しかしそれに比例するように葵生への愛おしさが胸に溢れ、律樹のぶんまでこの子をずっと愛していくと改めて決意をした。
そして、輪島市にきてから二度目の春が訪れた日。生後六ヶ月を過ぎた葵生を 抱いて、光莉は早苗の家を出ていくことになった。
ここにきたのは妊娠して間もない頃だ。だいぶ長い間の居候になってしまった。
早苗に声をかけられ、光莉はハッとする。気を抜くと考え事をしてしまう。
「ちょっと深呼吸しましょうか」
「え?」
「いいから、肩の力を抜いて、ね?」
早苗に言われるがまま、ふうっと呼吸を整える。
「輪島は、あなたのもうひとつの故郷と思いなさいな。そして私のことは第二の母だと思って、何でも頼りなさい。私もあなたのことを娘のように思ってるんやからね。だから、甘えられるのは嬉しいのよ。遠慮される方がずっと寂しいものよ」
「早苗さん……」
彼女の言葉は何よりも心強かった。
「さ、ベビー服、見てみましょうよ。可愛いのたくさんあるわねえ」
早苗が声を弾ませ、光莉の腕を絡める。
光莉は思わず頬を緩ませた。久しぶりに何もかも忘れて買い物を楽しんだ。
金木犀の香りが漂いはじめる頃――。
光莉は出産予定日どおりに男の子を生んだ。
葵(あお)生(い)と名前をつけた。庭に咲いている葵の花が、夏から秋へと移り変わる清々しい青空の下、まっすぐに空へと伸びた茎や葉の間から上を向いて空を仰ぐように咲いているところを見たときに思いついた。
俯きがちな気持ちをすくいあげてくれるような鮮やかな赤色・桃色・黄色・橙色・紫色・白色……色とりどりの花に心を癒された。
この子の人生がまっすぐに光りが降り注ぐ道でありますように、彩りに満ちた人生でありますように。胎動を感じながら夏の日に想いを馳せていた。
生まれたてのときは、まるでおさるさんのような人間らしくない顔をしていたのに、ひと月経過する頃にははっきりと律樹の面影を宿し、光莉はたまらなくなって泣きながら我が子を抱きしめた。
あなたが生まれてきてよかったと思える人生でありますように、母としてできることを尽くそう。光莉は心に誓った。
それからは怒涛の日々だった。
数時間ごとに起こされ、眠れない中で母乳をやり、頻繁におむつを替え、泣く理由がわからず途方に暮れ、不慣れな育児に追われる日々。
しかしそれに比例するように葵生への愛おしさが胸に溢れ、律樹のぶんまでこの子をずっと愛していくと改めて決意をした。
そして、輪島市にきてから二度目の春が訪れた日。生後六ヶ月を過ぎた葵生を 抱いて、光莉は早苗の家を出ていくことになった。
ここにきたのは妊娠して間もない頃だ。だいぶ長い間の居候になってしまった。