さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
「早苗さん、長らくの間、たくさん甘えさせてもらってありがとうございました。大変お世話になりました」
「私の方こそ光莉ちゃんと一緒にいられて本当に楽しかったのよ。ありがとう。明日から寂しくなるわぁ。ずっとここにいてくれてよかったのに。お父さんに似て、本当に真面目な子やねぇ」
 早苗は名残惜しむように葵生をあやしつつ、光莉にやさしい眼差しを向けた。
「ひとりだと思わないようにね。ここにはいつでも遊びにきていいんよ。困ったことがあったらいつでも何でも相談して。もちろん何もなくたっていいわ。たまには声を聞かせて。連絡よこしなさいな」
「はい」
 寂しい気持ちはあったが、早苗とはこれが別れではないのだと思うと、とても心強かった。
 早苗の家を出た日、最寄りの駅まで見送りにきてくれた颯太と待ち合わせをし、彼とはそこで別れの挨拶をした。
「颯太くん、今まで色々お世話になりました」
「いいよ。そんなかしこまったこと言わなくて」
「心が折れそうだった日々に颯太くんがいてくれてよかった。本当にそう思ってるもの」
 光莉が心から感謝を告げると、颯太は決まり悪そうに肩を竦めた。
「あなたの心を奪うまではいかなかったけどね」
 結局、光莉は自分の中にある想いを捨てきれずにいた。だから颯太に甘えることはできないし、彼を愛することはできない。出産したあと、改めてそう伝えていたのだ。このあとの行先はお互いのためを思って颯太には伝えなかった。
「まだ言ってるのね。忍びさんは往生際が悪いのかしら」
 しんみりしないように、光莉はわざとおどけてみせる。颯太もまた笑った。
「悔しいからさ、あんまり言いたくないけど、でも、次に会えるのはいつになるか分からないし、ちゃんと伝えておくよ。光莉さんには誰より幸せになってほしい」
「……ありがとう」
 腕の中にいる葵生があーあーと声を上げる。颯太は指を伸ばして葵に握らせた。握手、と颯太が言うと、葵生はきょとんとして彼を見上げていた。
「この先、いつか誰かと一緒になりたいと思う日が来るかもしれないし、奇跡が起きて、いつか、兄さんと一緒になれる日が来るかもしれない。どんな形であっても、あなたが笑顔でいられる日があったらいい。やっぱり思い出だけじゃ人は生きていけないと思うから」
 元気で、と彼は手を振った。
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