さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 金沢市の実家ではなく少し離れたところにアパートを借りた。しかし颯太には住所を教えなかったし、彼とは今度こそもう二度と会うことはないかもしれない。

 颯太が遠ざかっていくのを眺めながら、光莉はぼんやりとこれまでの日々を思い返す。
 律樹のことを忘れて、颯太と一緒に新たな人生を共に生きていく道を選べばよかっただろうか、と一度も考えなかったわけではない。
 彼の言うとおり、思い出だけで生きていくのは辛すぎる。誰かに寄りかかりたい日だってきっと出てくるだろう。ひとりで子育てをしながら働くのは想像している以上に大変に違いない。
 それでも光莉は胸にある想いをずっと愛していたかった。長い間、初恋の日々をずっと覚えていたように、律樹と過ごしてきたそれぞれの日々、彼に愛された日々、その事実を、思い出を、ずっと覚えていたかった。
 自分勝手で我儘で傲慢な考え方かもしれないけれど、ずっとこれから先も忘れることなく、葵生を育てながら律樹のことを想っていたいのだ。
 たとえこの先、律樹が他の人を選んで、新しい家庭を築くことになったとしても――。

 ――それから半年以上の月日が流れ、巡る十一月の初旬。
 
(――常盤修蔵が退任……)
 九月に一歳を迎えた葵生の誕生日から約二ヶ月が過ぎたある日のこと、テレビで常盤グループCEOの退陣のニュースが流れた。
 グループ企業の独占禁止法に触れる恐れのある不正、談合による下請けいじめなどの疑いから、公正取引委員会による家宅捜査が入ったらしい。緊急逮捕、公正取引委員会の調査、株価が暴落、ニュースの中にショッキングな文字が次々に映し出される。
 光莉はしばらくテレビに目を奪われて茫然とし、律樹のことを思い浮かべた。
 律樹はどうしているのだろう。常盤家の人たちは。そこまで考えてから、光莉はハッとして頭を振った。もう自分には何ら関係がないことだ。
 光莉は週休二日のフレックスタイム制をとっている会社の事務の仕事をはじめた。万が一出勤できないことがあってもテレワークでカバーできるようにバックアップしてくれるところに魅力を感じた。何より内勤業務であることに安心感がある。新しく覚えることが多くあってしばらくは休みの日でさえも勉強の日々だったが、安定した収入があるということが何よりの支えになる。
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