さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
「光莉」
「ごめん、なさい」
 喉の奥がひきつれそうになる。身体は強張ったまま、一歩も動けない。
「いや、俺の方こそ、突然来て、驚かせてごめん。明日、改めて話をする時間をもらえないか?」
「でも」
「約束する。君とこの子が怖がるようなことは絶対にしないし、君たちの生活を脅かすことなんてしない」
 信じてほしいと、律樹の真剣な眼差しが訴えてくる。
「番号は変わってないから。ちょっとでも、会える時間があれば教えてほしい」
 光莉が戸惑っていると、律樹はそう言い残して、じゃあと踵を返した。意外に強引なところは変わっていないらしい。
 黒い立派な車が待機していた。仕事帰りにここに寄ったのだろうか。
 律樹を乗せた車が去ったあとも、光莉は葵生を抱きしめたまま、その場からなかなか動けずにいた。

 その日の夜、光莉は葵生を寝かしつけたあと、スマホの連絡帳を眺め、何度もため息をついた。律樹に連絡をする勇気が持てなかったのだ。ここで接点を作ってしまったら、引き返せない気がしたから。
『君から奪うものなんて、もう何ひとつないよ』
 律樹の言葉には嘘がない。それだけはわかる。それなら、どうして律樹は現れたのだろう。何を話そうとしているのだろう。
『約束する。君とこの子が怖がるようなことは絶対にしないし、君たちの生活を脅かすことなんてしない』
 わざわざ東京から金沢に出てきているということは数日滞在しているということなのか。
 もう二度と会わない、会えないと思ったのに。
 結局、連絡ができないまま朝を迎えてしまっていた。
 今日は午前中で仕事が終わる。保育園に預けた葵生をすぐに迎えに行って帰ろう。忙しい律樹がずっと金沢にいられるとは思えない。彼と会わずにいる時間を作っていれば……。
 そう考えていたのだが、ふとこんなときになぜか颯太の言葉が蘇ってきた。
『これから先はどうするの。ずっと、雲隠れっていうわけにもいかないんじゃない』
 律樹だって葵生が自分の子どもだということにはきっと気付いているだろう。彼とはきちんと話をするべきなのかもしれない。
 結局、光莉は葵生を保育園に預けたあと、律樹に連絡を入れ、仕事の後会う約束をした。

 光莉は迷った末、律樹を家に招いた。カフェなどで気軽にできる話ではないと思ったからだ。狭いアパートの部屋に案内するのは気が引けたが、この際もう致し方ない。
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