さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
光莉は山谷食品の企画部商品開発チームで働いている。父・山谷幸雄が代表を務める会社だ。
小さな会社ではあるけれど、古くから繋がりのある農家との契約を大事にし、石川の名産品を使い、独特の味に拘ったスイーツや秘蔵の製造方法により日持ちする土産用の惣菜などを販売する老舗ブランドとして、幾度かメディアに紹介されたこともある。
地元の素材を大切にし、地元の魅力を伝えていこう、という創業者の理念は祖父から父の代へと引き継がれ、光莉も将来は継ぎたいと思っている。
「地元、か」
ふと、窓の外を見た。 美しい彩りを添えていく世界の中にただひとつ変わらないもの――十代の頃に置き忘れてきた淡い初恋の記憶が、脳裏に蘇ってくる。
――幼なじみのあの人は、今頃どうしているのだろう。
小学生の頃から中学二年の終わり頃まで、光莉は東京都内の学校に通っていた。そこで共に過ごした彼のことを、季節が巡るたびにそうして思い浮かべる。時が過ぎるにつれ、だんだんと記憶の色は曖昧にぼやけて、その輪郭すらわからなくなっていくのに、なぜかこの季節に見る夢の中では彼が成長した姿を鮮明に思い描けた。
むしょうに会いたくなる。でも、会えなくてもそれでもよかった。なぜかわからないけれど、彼とはずっと繋がっていられる気がするのだ。
この感情は、遠い秋の日に残してきた想いのせいだけれど、未練というのとは少し異なる。ただ、あの頃とても輝いていた初恋の思い出を、いつまでも記憶の中にコレクションしていたいだけだった。
そんなセンチメンタルな気持ちをよそに、先週、二十八歳を迎えた光莉には浮いた話ひとつなく、栗、芋、餡……という文字を見るだけで猛烈にわくわくしているという状況なのだけれど。
気を取り直し、別のスイーツを試食しようと口を開きかけたときだった。父・幸雄 が手招きをしているのが見え、光莉は一旦試食していた手を止め、幸雄の元へと行く。
「どうしたの、お父さん」
「光莉にお願いがあってね」
幸雄からの話は、大企業・常盤(ときわ)グループの創業記念パーティーに招待されているので、代理で参加してほしいというものだった。
「私が東京に……?」
「ああ。本当はひとりで行かせたくないんだが……今週末はどうしても別の用件で都合がつかなくてね。光莉にしか頼めないんだ」
小さな会社ではあるけれど、古くから繋がりのある農家との契約を大事にし、石川の名産品を使い、独特の味に拘ったスイーツや秘蔵の製造方法により日持ちする土産用の惣菜などを販売する老舗ブランドとして、幾度かメディアに紹介されたこともある。
地元の素材を大切にし、地元の魅力を伝えていこう、という創業者の理念は祖父から父の代へと引き継がれ、光莉も将来は継ぎたいと思っている。
「地元、か」
ふと、窓の外を見た。 美しい彩りを添えていく世界の中にただひとつ変わらないもの――十代の頃に置き忘れてきた淡い初恋の記憶が、脳裏に蘇ってくる。
――幼なじみのあの人は、今頃どうしているのだろう。
小学生の頃から中学二年の終わり頃まで、光莉は東京都内の学校に通っていた。そこで共に過ごした彼のことを、季節が巡るたびにそうして思い浮かべる。時が過ぎるにつれ、だんだんと記憶の色は曖昧にぼやけて、その輪郭すらわからなくなっていくのに、なぜかこの季節に見る夢の中では彼が成長した姿を鮮明に思い描けた。
むしょうに会いたくなる。でも、会えなくてもそれでもよかった。なぜかわからないけれど、彼とはずっと繋がっていられる気がするのだ。
この感情は、遠い秋の日に残してきた想いのせいだけれど、未練というのとは少し異なる。ただ、あの頃とても輝いていた初恋の思い出を、いつまでも記憶の中にコレクションしていたいだけだった。
そんなセンチメンタルな気持ちをよそに、先週、二十八歳を迎えた光莉には浮いた話ひとつなく、栗、芋、餡……という文字を見るだけで猛烈にわくわくしているという状況なのだけれど。
気を取り直し、別のスイーツを試食しようと口を開きかけたときだった。父・幸雄 が手招きをしているのが見え、光莉は一旦試食していた手を止め、幸雄の元へと行く。
「どうしたの、お父さん」
「光莉にお願いがあってね」
幸雄からの話は、大企業・常盤(ときわ)グループの創業記念パーティーに招待されているので、代理で参加してほしいというものだった。
「私が東京に……?」
「ああ。本当はひとりで行かせたくないんだが……今週末はどうしても別の用件で都合がつかなくてね。光莉にしか頼めないんだ」