さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 最初の頃は鬱陶しそうにされたが、そのうち彼は諦めたのか、光莉を受け入れ、だんだんとふたりは普通に話をするようになった。本が好きということもあり、博識な彼は実は無口とは程遠いほど話し上手で、光莉は彼の口から紡がれる物語の真相などを聞くのが楽しかった。
 物静かな律樹と、快活な光莉とでは正反対だったが、一緒にいて居心地のいい存在だった。そう思っているのが光莉だけではなく、律樹も一緒だったら嬉しいと思っていた。
 それは、きっと初恋だった。
 中学生になると、律樹と光莉が付き合っているという噂が流れた。仲の良さをからかわれた。しかし実際は、光莉が勝手に片思いをしていただけで、告白をしたりされたりという関係ではないし、彼とはずっと友だちのままだった。せっかく築いた絆を壊したくなくて、光莉は勇気を出して告白することができなかった。ただ、ずっと側にいたかったのだ。
 しかし光莉が中学二年のときに祖父が急逝し、父が祖父の会社の後を継ぐため、両親と共に金沢に行くことになった。お互いに別れを惜しみ、光莉が金沢へ行ってからも、彼とはメールのやりとりをしていたけれど、高校に入学してから音信不通になった。小学校や中学校の同窓会が開かれても、彼は現れなかった。そのあと、彼がどうしていたのかは知らない。
 あれから十年以上もの歳月が過ぎた。
 壇上にいる彼と、光莉の知っている彼とは違うのかもしれない。それに、あの態度を振り返れば、彼はあえて知らないふりをしたということだ。何か事情があって知られたくないということだろうか。気付かれたくなかったから驚いて戸惑っていたのだろうか。
 いくら目で追っても、律樹はこちらを見ようとしない。光莉の様子を気にかけるそぶりもない。光莉はまるで透明人間にでもなったような気分だった。
(りっちゃん、私はあなたにずっと会いたかったよ。どうしているかずっと気になっていた)
 結局、連絡が途絶えたまま会えなくなってしまった。
 いつか、大人になった彼と会える日が来たら、今度こそ友だちのままじゃなく……そんなふうに思い描いていたこともあるけれど、あのとき勇気を出して告白できなかったのに、今さら、そんな夢みたいな話があるわけない。律樹の振る舞いに、嫌というほどそのことを思い知らされる。
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