さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
(せめて、あなたに何があったのか、聞いてはいけない? 知りたいと願うのは、私の勝手なわがままでしかないのかな。私は、このまま知らなかったふりをして、あなたを忘れた方がいいの?)

 パーティーはつつがなく終了した。予定どおりの進行だった。父の代理でパーティーに参加するという使命は無事に果たせた。色々な企業の人と話をすることができたのはよかった。
 けれど、光莉は落ち込んでいた。とても観光する気分ではなかった。
 ひとまずホテルの部屋に戻って休もうと、エレベーターの方へ足を向けたときだった。携帯が鳴って、光莉は隅の方へ移動し、通話に出る。
『大変やよ。光莉ちゃん、社長が――』
 早苗の切迫した声が聞こえてきた。
 父が倒れたという報せだった。
「お父さんが……」
 光莉は頭が真っ白になった。
「わかった。すぐに帰るわ」
 光莉はホテルの部屋の荷物を急いでまとめてチェックアウトを済ませる。それから駅の時間を確認し、ロータリーに止まっていたタクシーに手を挙げた。
 移動しやすいようにスニーカーに履き替えていた光莉は、腕に抱えていたパンプスの片方が転がっていったことに、このときまったく気付いていなかった。
 それが誰の手に渡っていたのかも――。
「山谷、光莉――」

◇2 誰のための政略結婚?

 金沢市内に戻ってすぐ、光莉はタクシーに乗り込み、幸雄が救急車で運ばれたという市立病院へと向かった。
 移動中、個室に移動したという連絡があり、教えてもらった病室を訪れると、専務の川岸が険しい表情でそこに控えていた。
 川岸が口を開くのを待っていられず、光莉は急いで父の側に駆けつける。眠ったままの父の前に座り、とっさに手をとった。
「お父さん!」
 幸雄は反応を示さない。死んでしまったのではないかと錯覚した。しかし手は温かく、父の手の温もりに縋るようにして、光莉はその手をぎゅっと強く握った。
「大丈夫ですよ。命に別状はありません。さっき、一旦麻酔から目を覚まして光莉さんのことを気にかけていたんですが、少しうとうとしたあと、疲れたのかまた眠ってしまわれました」
 急性心筋梗塞を起こし、緊急で心臓のバイパス手術が行われた、と川岸が説明してくれた。すぐに処置されたことが幸いだったようだ。
「そうでしたか。本当に、無事で……よかった」
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