さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 初恋は、初恋のままだからこそ、美しいものなのだと胸に秘めて、仕舞いこんだ。

◇3 君の味方だから

 二週間後――。
 大豪邸を目の前にした光莉は思わず息を呑 んだ。
 地元の金沢にも立派な屋敷や文化遺産の街並みが並んでいるし、東京に暮らしていたときだってそれなりに立派な邸宅を見たことはあったけれど、豪邸と呼んでいいのはここくらいのような気がしてしまう。ひとつお城といってもいいくらいだ。それくらい圧巻の造りだった。
 経済界を動かす常盤グループCEOが当主を務める由緒正しい家柄の常盤家。そのご子息との政略結婚。つまり、光莉はこれからここの長男の妻という立場になるのだ。
 開いた門の先には整備された池と噴水があり、迎賓館のような大邸宅の奥にさらに敷地があり、そちらには歴史を感じさせる武家屋敷が佇んでいた。
 これだけ広い敷地と建物では、きっと使用人も多数召し抱えていることだろう。
(本当に私なんかに務まるの――?)
 覚悟を決めたつもりになっていただけだったかもしれない。考えが甘いと誰かに指摘されてもおかしくはない。
(けれど、他に選択肢なんてないじゃない。後戻りなんてもうできないんだわ)
 光莉は律樹と共に幸雄の病室を訪れたときのことを思い浮かべていた。

『結婚だって?』
 以前に比べて顔色がよくなっていた幸雄の様子を窺い、光莉は父に報告することにしたのだが、いきなり一緒に現れた律樹を見て、幸雄は表情を硬くした。
『君は……』
 父が表情を変えた理由を、光莉はすぐに察知した。以前に、父が何かを言いかけていたのは、会社が傾いていること、そして政略結婚のことを、光莉に相談したかったのだろう。父はすでに政略結婚のことを知っていたのだ。
 父が気に病んでしまわないように、事前に律樹と打ち合わせしたとおりに、光莉は演じた。
『彼が以前、うちを建て直す代わりに私との結婚を持ち掛けたことは聞いたわ。でも、心を決めたのはそのためじゃないの。親身に相談に乗ってもらっているうちに、彼のことを頼もしいと思ったの。それで、ふたりで話し合って、結婚することに決めたのよ』
『いや。やはり、こんなことはだめだ。娘をやるわけにはいかない。亡くなった母さんだって悲しむ。考え直してくれ』
 幸雄はベッドから起き上がる勢いで、光莉のことを庇おうとしてくれていた。
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