さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 律樹に目配せをされ、光莉は頭を下げるだけに留める。彼は執事だろうか。これだけのお屋敷なのだから使用人の数も多くいることだろう。
 広々とした応接室に通されると、何名かがその場に集っていた。
 派手な化粧をした赤いワンピース姿の女性と薄い縁の眼鏡をかけた黒いスーツ姿の男性がそれぞれソファに座り、ドアの側にはメイド服を着た女性が数名控えていた。
「その子が、お義兄さんの婚約者? ふぅん。なんだか地味ね」
 ソファに座る派手な化粧をした赤いワンピース姿の女性が、品定めをするように光莉の頭のてっぺんからつま先へと視線を滑らせた。彼女は巻き髪が似合う瓜実顔の美人だが、美しい顔の下には冷たさが滲んでいるようだった。
「そうかな? 僕はなかなかの美人だと思うよ。ねえ、兄さん」
 眼鏡をかけたスーツ姿の男性は、切れ長の目をさらに細め、嫣然と微笑む。しかし目の奥が笑っているようには見えない。毛色の違う動物を観察するような好機の目で光莉を眺めているといった様子だ。
 光莉はいたたまれない気持ちで、身を硬くしていた。すると、律樹がそっと光莉の肩を抱いてくれた。
「そんな言い方は失礼だろう」
 律樹の手に力がこもる。彼の表情が険しい。
 意外な彼の行動に、光莉は驚いていた。彼自ら庇ってくれるとは思わなかった。
「いいか? 品定めするような目で彼女を見ないでくれ」
 律樹はそう釘を刺してから、彼らに光莉を紹介してくれた。
「彼女は、山谷光莉さん。俺の妻になる人だ」
「初めまして」
 光莉は即座に頭を下げた。そして、律樹が光莉の方を見る。
「光莉、弟の雄介(ゆうすけ)と、弟の妻、麻美(あさみ) さん」
「どうも」と雄介が光莉から目を逸らさずに言った。相変らず貼りつけたような微笑を浮かべながら。
「よろしく」
 と、麻美はそっけなく言った。彼女の声にも温もりは感じられない。
「よろしくお願いいたします」
 光莉は失礼がないように、せめて愛想よくしておこうと笑顔で挨拶をしたが、やはり反応は薄い。彼らはそのまま身じろぎすることなく見物をしている。心から歓迎してくれているといった様子はない。無論、そんなことは百も承知の上だけれど、胃がきりきり痛くなってくる。
「光莉」
「は、はい」
「向こうのふたり。執事の田中(たなか)に、メイド長の白井(しらい)。これから君の世話係になる人だ」
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