さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 常盤家に入って以来、光莉は、花嫁教育の一環として、華道や茶道、日本舞踊といった習い事や各々作法について学んでいた。今日は光莉にとって、常盤家長男の妻として初めての公の場ともいえるだろう。
 麻美の嫣然とした微笑みには、あなたにできっこないという見下した空気が含まれていた。無論、麻美は四年前にこの家に嫁いでいる。義妹とはいえ、彼女の方がひとつ年上だし、光莉の先輩には違いない。
 一週間で情報収集して見えてきたのだが、雄介が麻美とのお見合い結婚を決めたのは、修蔵の言いなりになる一方、律樹よりも先に妻を迎えることで常盤家の跡継ぎ候補のひとりであることをアピールしたかった側面もあったようだ。雄介とは不仲の麻美だが、地位を守るのに必死だという点では夫婦の目的は揃っている。だからこそ、律樹と光莉の存在は目の上のたんこぶなのかもしれない。疎ましく思っている空気が伝わってくる。
(つい、むきになって、私にできる精一杯をやらせていただきます……って言っちゃったけど)
「はぁ」
 光莉は私室の姿見を前に、ため息をついた。今の自分は何も持たない、ただのお飾りだ。否、お飾りにすらなれていないただの居候。たった一週間の間に、数々のことが詰め込まれたため、今にも頭がパンクしそうだ。花嫁修業という名目でのスパルタ教育とはこのことではないかと思った。
 プレッシャーに胃が痛くなり、光莉は無意識に腹部をさすった。
 麻美は以前、夫の雄介を暇人扱いしていたけれど、彼女の方がよほど暇を持て余している様子だ。家に外商を呼んで派手に散財しては、連日どこかのパーティーに出かけている。麻美は会社のために必要なことなのよ、などと言い張っているけれど、彼女の出かける支度に振り回されたり怒鳴られたりしている使用人達の姿を何度も目にしている。そのたび光莉は麻美に気付かれないようにこっそり彼らの手伝いをしたものだ。
 雄介と不仲なだけではなく、夫が当主から目をかけられておらず、自分の地位が揺らぐのではないかと危惧しているからか、光莉に対するあたりが強い。雄介が不在のときは、光莉を憂さ晴らしのための新しい玩具のように思っている節がある。きっと彼女は今日もまた物見遊山に行くような気分で、光莉に恥をかかせて嘲笑うつもりなのだろう。
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