さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
光莉にだって羞恥心というものはあるけれど、別に自分が恥をかいたからといって何か失うものがあるわけじゃない、と心に留めておくことにした。
ふと、光莉は父の幸雄のことを思い浮かべた。昨日、幸雄からの着信を折り返したときのこと。
『体調は安定していて、元気にやっているよ。会社の方も川岸が社長代理として色々とやってくれてね。本当に頼もしいよ。光莉のつまみ食い姿が見られないのは寂しいものだが』
父の声は朗らかだった。入院していたときのような弱弱しさは感じられない。
当初、合併後は東京に機能を移すという計画ではあったものの、 律樹が尽力してくれた結果、最終的に会社も工場もそのまま残すという話になったのだ。
「つまみ食いってひどいわね。試食でしょう?」
『はは。悪い、悪い。前に光莉が推してくれていた商品開発の件も協力企業が増えてね、順調に進められそうだということだよ』
「そう、それはよかった」
幸雄には何も打ち明けられない。ただ、問題が何もなく過ごせているのなら幸いだ。きちんと根回しをしておくと言ってくれた律樹の言葉に嘘はないらしい。山谷食品の経営が軌道修正できるよう彼が担当者としてパイプ役になってくれているようだ。それだけでも救いだと、光莉はホッと胸を撫で下ろす。
無論、川岸にだけは光莉の事情を伝えてある。絶対に幸雄には知らせないようにという約束で。
何となくよそよそしさが伝わったのか、『光莉は幸せなのか』と何度も尋ねられた。
「幸せよ。元気にやっているから心配しないで。そのうち、顔を出すから」
そのうち……というのが、いつになるかはわからない。これは政略結婚だから。光莉には選ぶ意思があっても自由はない。
数年後……と曖昧に濁していた律樹の言葉からもすんなりと金沢に帰してはくれないことを察していた。古いしきたりを尊ぶ名家に嫁ぐとは、そういうことだ。
父を安心させたくて律樹との恋愛結婚を偽装することを思いついたけれど、本当のことを言えずにいたことが正解なのかどうかはまだわからない。いつまでも罪悪感に囚われてしまうし、簡単には金沢に戻れないことへの寂寞感にたまらない気持ちになるのだ。
(ごめんね。お父さん……これが今の私にできる唯一の守り方なんだよ)
ふと、光莉は父の幸雄のことを思い浮かべた。昨日、幸雄からの着信を折り返したときのこと。
『体調は安定していて、元気にやっているよ。会社の方も川岸が社長代理として色々とやってくれてね。本当に頼もしいよ。光莉のつまみ食い姿が見られないのは寂しいものだが』
父の声は朗らかだった。入院していたときのような弱弱しさは感じられない。
当初、合併後は東京に機能を移すという計画ではあったものの、 律樹が尽力してくれた結果、最終的に会社も工場もそのまま残すという話になったのだ。
「つまみ食いってひどいわね。試食でしょう?」
『はは。悪い、悪い。前に光莉が推してくれていた商品開発の件も協力企業が増えてね、順調に進められそうだということだよ』
「そう、それはよかった」
幸雄には何も打ち明けられない。ただ、問題が何もなく過ごせているのなら幸いだ。きちんと根回しをしておくと言ってくれた律樹の言葉に嘘はないらしい。山谷食品の経営が軌道修正できるよう彼が担当者としてパイプ役になってくれているようだ。それだけでも救いだと、光莉はホッと胸を撫で下ろす。
無論、川岸にだけは光莉の事情を伝えてある。絶対に幸雄には知らせないようにという約束で。
何となくよそよそしさが伝わったのか、『光莉は幸せなのか』と何度も尋ねられた。
「幸せよ。元気にやっているから心配しないで。そのうち、顔を出すから」
そのうち……というのが、いつになるかはわからない。これは政略結婚だから。光莉には選ぶ意思があっても自由はない。
数年後……と曖昧に濁していた律樹の言葉からもすんなりと金沢に帰してはくれないことを察していた。古いしきたりを尊ぶ名家に嫁ぐとは、そういうことだ。
父を安心させたくて律樹との恋愛結婚を偽装することを思いついたけれど、本当のことを言えずにいたことが正解なのかどうかはまだわからない。いつまでも罪悪感に囚われてしまうし、簡単には金沢に戻れないことへの寂寞感にたまらない気持ちになるのだ。
(ごめんね。お父さん……これが今の私にできる唯一の守り方なんだよ)