さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 父が精一杯守ってきてくれたように、光莉にも守らなければならないことがあるのだ。複雑な気持ちではあるけれど、もちろん幸せだと答えるしかない。
(私は私にできることをしなくちゃ)
 年若いご令嬢との交流ということもあり、今日は着物ではなく清楚なワンピースで動きやすい服装を選んだ。ここ最近は着物姿でいることが多かったので、それだけは少し楽ちんで助かった。
「光莉、いい?」
 ノックの音と共に、律樹の声が届いた。
「え、ええ。どうぞ」
 光莉は慌てて髪を手櫛で整え、彼の方へ振り向いた。なるべく言葉遣いも丁寧に、淑やかに心がけなければならない。
「大丈夫か? 緊張しているようだけど」
 律樹が慮ってくれる空気を感じて、光莉は小さくため息をついた。
「緊張しないわけがないわ。律樹さんはここに来てすぐに慣れた?」
「前にも言っただろ。すぐに慣れるしかなかった」
 困ったように律樹は微笑む。そういう些細な表情に思わず過去の彼を重ねそうになり、光莉は慌てて記憶にシャッターを下ろし、現実へと目を向けた。
「じゃあ、私もそうするしかないよね。習うより慣れろというし」
 何かを言いたげな律樹を尻目に、光莉はふわりと表情を作ってみせた。空元気ついでに来客用の笑顔の練習のつもりだった。
「こんな感じでいいかしら」
 律樹が一瞬固まってしまったのを見て、光莉はたちまち気恥ずかしくなってしまった。
「そ、そんなにひどい?」
「ああ、いや。もう少し自然でいい。へたに取り繕っても子どもにはすぐに見透かされるだろう。いい見本がいるよ。麻美さんは子どもにあまり好かれない」
 今、律樹がさらっとひどいことを言った気がしたけれど、なおさら麻美が光莉に突っかかってくる理由が分かった気がする。
 思わず「たしかに」と頷いてしまった。
「そんなに気負わなくていい」
「え?」
「君の側には俺がいる」
 澄んだ瞳を向けられ、光莉は息を呑んだ。
「……っ」
「君は君のままでいい。それが正解だ」
 律樹の言葉にときめいてしまい、光莉はとっさに彼から目を逸らした。
「う、うん……」
「困ったことがあれば、俺がフォローするから」
 頼もしい彼の言葉に、不覚にも胸の内側がきゅんと音を立てる。鼓動が騒がしい。息をするのが苦しいくらいだ。ざわざわと身体が熱くなっていくのを感じる。
(びっくりした……反則じゃないの)
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