さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 政略結婚を強いたのは目の前の彼なのに、平気で好きだとか愛しているとか嘘でいくらでも言える人なのに、そんな彼に簡単に絆されそうになる自分が嫌になる。
「行こう」と手を握られ、一瞬たじろぐものの、甘やかす目で見られては邪険にできない。政略結婚という形にがんじがらめになっていた光莉は、たまにこうして律樹に毒気を抜かれてしまう。
(こういうところ、調子が狂うのよね)
 照れが先だってしまい、握り返すこともできず、指先さえ動かすこともはばかられて、結局、律樹に連れていかれるまま、光莉は彼と共にゲストを出迎えにいくのだった。
 貴美子と麗華を迎え入れたあと、光莉は律樹と共に各々自己紹介した。
 彼女たち親子の艶やかに手入れされた髪、上品な所作や立ち居振る舞いからは、やんごとない家柄らしいオーラが漂い、息を呑むように圧倒された。話し方や声色にも気品があった。
 親子でお揃いにしたという清楚な白いワンピースもきっとハイブランドのものなのだろう。美しさや愛らしさをよりいっそう引き立て、ふたりにとても似合っている。
 緊張に身を包みながら彼女たちを迎えたあとは、庭園でアフタヌーンティーを愉しむことになった。
 律樹が言ってくれたとおり、自然体で接したことが功を奏したらしい。「まだ嫁いできたばかりで……」という言葉はしばらくの間は武器になるかもしれない。実際、そのとおりで、常盤家とゲストの繋がりなど詳しいことはわからない。光莉はとにかく粗相のないように気をつけるだけだ。
 甘いものに目がない麗華のおかげで好きなケーキの話で盛り上がったのが幸いだった。そうして菓子やケーキを紅茶と共に堪能したあと、先日コンクールで優勝をしたという麗華のピアノを披露してもらい、順調に和やかな時間が過ぎていくと思われたときだった。
「そうそう、光莉さんもピアノは小さな頃から習っていたのよね」
 何曲か披露してくれた麗華に拍手を送ったあと、いきなり麻美がそう言い出し、光莉はたじろいだ。
「まぁ。ぜひ聴かせていただきたいわ。ねえ、おねえさまお願い」
 ごきげんな麗華はすっかりその気になって光莉の手を握って引っ張った。
「まあまあ、麗華ったら。すっかり光莉さんを気に入ったのね」
 貴美子が愛娘のはしゃいだ様子に頬を緩め、親しみを込めて光莉を見る。
 これは大変困ったことになった。
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