さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
「すてき。私もヴァイオリン習いたいわ。ねえ、お母様」
麗華はすっかり目を輝かせている。
「麗華、まずは光莉さんの演奏を聴かせてもらいましょう」
「はい。お母様」
光莉は鎖骨から左肩へヴァイオリンを乗せ、そっとやさしく腕の中におさめると、構えの姿勢を整え、深呼吸した。
かの有名なエドワード・エルガー作曲の『愛の挨拶』の譜面を頭の中に思い浮かべ、弓をゆっくり滑らせていく。
ひと呼吸のあと、甘い音色が奏でられるイメージ――のはずだった。
しかしギギィと猫が爪で掻いたような不快音が響き、その場にいた面々が一斉に顔をしかめる。
「あ、あれ。おかしいな」
とっさに素で心の声が漏れた。はしたないとか構っていられる余裕はなかった。
楽器に触れるのが久しぶりだとしても、こんなはずではなかった。緊張や混乱するほどますますパニックになってしまう。
うしろ の方で見物していた麻美がくすくすと笑っている。ここぞとばかりに身を乗り出してきた。
「もう、光莉さんったら。どうしてしまったの。本当にお上手ねえ。ひょっとして、これは何か特別な余興なのかしら」
彼女の嫌味にはもう慣れてしまった。それよりも先ほどまで表情を輝かせていたご令嬢に失望した目を向けられるのは、なんだかとても心苦しかった。母親の貴美子さんも想定外だったらしく微妙な表情を浮かべている。これでは、律樹としても立つ瀬がないことだろう。
「余興、かもしれませんね」
律樹がひと言添えてから、光莉の側に寄り添った。
「貸してごらん。震えているんだ。緊張してるだけだよ。僕がサポートしてあげるから」
そう言い、律樹が光莉をうしろから抱きしめるような体勢で、左手でヴァイオリンを支え、右手を握って弓を動かしはじめた。
「力を抜いて」
耳のうしろに低い声が響く。思わず弓を落としてしまいそうだった。そのまま律樹に操られるまま光莉は彼に身を委ねた。ゲストの手前ということもあるのかもしれないが、今の律樹は、昔の律樹みたいだ。物腰が穏やかな雰囲気はさながら王子様のようだった。
「……っ」
想像していた以上の、美しい音色が奏でられる。
耳が熱い。うしろに感じる律樹の存在感に意識がとられてしまいそうになる。一緒に動かした腕や手に痺れさえ感じてしまう。頭が真っ白に染まりかけそうになり、光莉は必死に集中しようとするので精一杯だった。
麗華はすっかり目を輝かせている。
「麗華、まずは光莉さんの演奏を聴かせてもらいましょう」
「はい。お母様」
光莉は鎖骨から左肩へヴァイオリンを乗せ、そっとやさしく腕の中におさめると、構えの姿勢を整え、深呼吸した。
かの有名なエドワード・エルガー作曲の『愛の挨拶』の譜面を頭の中に思い浮かべ、弓をゆっくり滑らせていく。
ひと呼吸のあと、甘い音色が奏でられるイメージ――のはずだった。
しかしギギィと猫が爪で掻いたような不快音が響き、その場にいた面々が一斉に顔をしかめる。
「あ、あれ。おかしいな」
とっさに素で心の声が漏れた。はしたないとか構っていられる余裕はなかった。
楽器に触れるのが久しぶりだとしても、こんなはずではなかった。緊張や混乱するほどますますパニックになってしまう。
うしろ の方で見物していた麻美がくすくすと笑っている。ここぞとばかりに身を乗り出してきた。
「もう、光莉さんったら。どうしてしまったの。本当にお上手ねえ。ひょっとして、これは何か特別な余興なのかしら」
彼女の嫌味にはもう慣れてしまった。それよりも先ほどまで表情を輝かせていたご令嬢に失望した目を向けられるのは、なんだかとても心苦しかった。母親の貴美子さんも想定外だったらしく微妙な表情を浮かべている。これでは、律樹としても立つ瀬がないことだろう。
「余興、かもしれませんね」
律樹がひと言添えてから、光莉の側に寄り添った。
「貸してごらん。震えているんだ。緊張してるだけだよ。僕がサポートしてあげるから」
そう言い、律樹が光莉をうしろから抱きしめるような体勢で、左手でヴァイオリンを支え、右手を握って弓を動かしはじめた。
「力を抜いて」
耳のうしろに低い声が響く。思わず弓を落としてしまいそうだった。そのまま律樹に操られるまま光莉は彼に身を委ねた。ゲストの手前ということもあるのかもしれないが、今の律樹は、昔の律樹みたいだ。物腰が穏やかな雰囲気はさながら王子様のようだった。
「……っ」
想像していた以上の、美しい音色が奏でられる。
耳が熱い。うしろに感じる律樹の存在感に意識がとられてしまいそうになる。一緒に動かした腕や手に痺れさえ感じてしまう。頭が真っ白に染まりかけそうになり、光莉は必死に集中しようとするので精一杯だった。