さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
「律樹さん、さっきは色々……助けてくれてありがとう」
せめて素直にお礼は伝えたい。
「いや。別に俺はただ支えていただけだし。ヴァイオリン、あれからちゃんと弾けるようになっていたんだな」
昔もあまり上手ではなかったことを、律樹は思い出したのだろうか。微かに笑みを浮かべている彼の様子を見て、光莉は決まり悪くなる。たしかに律樹の方が上手だったし、彼もまた常盤家に入って常識のように演奏できるようになったのかもしれない。ふたりの間には色々なところで差が開いていたということだ。
「お小遣いを貯めて、練習用のヴァイオリンを買ったのよね。でも、どこかに仕舞ったままだわ。一時期、あんなに夢中になっていたのにね。曲だってすぐに思い出せなかった」
「そう。君さえよければ、いつでもレッスンには付き合うよ」
律樹の厚意を嬉しく思う一方、すんなり甘えてしまうのも違う気がして、
「麗華様との約束を破るわけにはいかないものね……そうしてもらってもいい?」
言い訳がましかったかもしれないけれど、そんなふうに告げた。律樹の奏でるヴァイオリンを聴いてみたかったというのが一番の本音かもしれない。
「ああ」と、律樹が穏やかに頷く。その表情がとてもやさしくて嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
少し前よりも律樹との距離を近くに感じられるようになり、光莉は胸の奥が熱くなるのを止められなかった。
彼のことを知りたい。過去と今は違う。開いている差が簡単に埋められるとは思わないし、立場も身分も違う。
けれど、同じひとつ屋根の下にいる。今の律樹は光莉の夫だし、敵ではなく味方なのだ。それが、どれほど心強いことか。改めて光莉は彼を頼もしく思う。
自分も変わっていかなければ、嘆いても仕方ない。前途多難には違いないけれど、一歩ずつ前進していけたらいい。
このときの光莉は、まさに希望に満ちはじめている最中だった。
しかし一方で冷たい視線が注がれていることに気付く。庭園から麻美が面白くなさそうにこちらを睨んでいた。
光莉はあえて気付かないふりをして頭を下げた。麻美はふいっと顎を突き上げるように顔を逸らし、邸の中へと戻っていった。
知らないふりをしたとはいえ、ちょっとだけ気がかりだった。
「よかったのかな」
「麻美さんのことはあまり気にしない方がいい」
せめて素直にお礼は伝えたい。
「いや。別に俺はただ支えていただけだし。ヴァイオリン、あれからちゃんと弾けるようになっていたんだな」
昔もあまり上手ではなかったことを、律樹は思い出したのだろうか。微かに笑みを浮かべている彼の様子を見て、光莉は決まり悪くなる。たしかに律樹の方が上手だったし、彼もまた常盤家に入って常識のように演奏できるようになったのかもしれない。ふたりの間には色々なところで差が開いていたということだ。
「お小遣いを貯めて、練習用のヴァイオリンを買ったのよね。でも、どこかに仕舞ったままだわ。一時期、あんなに夢中になっていたのにね。曲だってすぐに思い出せなかった」
「そう。君さえよければ、いつでもレッスンには付き合うよ」
律樹の厚意を嬉しく思う一方、すんなり甘えてしまうのも違う気がして、
「麗華様との約束を破るわけにはいかないものね……そうしてもらってもいい?」
言い訳がましかったかもしれないけれど、そんなふうに告げた。律樹の奏でるヴァイオリンを聴いてみたかったというのが一番の本音かもしれない。
「ああ」と、律樹が穏やかに頷く。その表情がとてもやさしくて嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
少し前よりも律樹との距離を近くに感じられるようになり、光莉は胸の奥が熱くなるのを止められなかった。
彼のことを知りたい。過去と今は違う。開いている差が簡単に埋められるとは思わないし、立場も身分も違う。
けれど、同じひとつ屋根の下にいる。今の律樹は光莉の夫だし、敵ではなく味方なのだ。それが、どれほど心強いことか。改めて光莉は彼を頼もしく思う。
自分も変わっていかなければ、嘆いても仕方ない。前途多難には違いないけれど、一歩ずつ前進していけたらいい。
このときの光莉は、まさに希望に満ちはじめている最中だった。
しかし一方で冷たい視線が注がれていることに気付く。庭園から麻美が面白くなさそうにこちらを睨んでいた。
光莉はあえて気付かないふりをして頭を下げた。麻美はふいっと顎を突き上げるように顔を逸らし、邸の中へと戻っていった。
知らないふりをしたとはいえ、ちょっとだけ気がかりだった。
「よかったのかな」
「麻美さんのことはあまり気にしない方がいい」