さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 律樹がそう言うのなら、と光莉は無理矢理自分を納得させることにした。
 邸の中にふたりして戻ると、武家屋敷風の別邸の方に、見たことのない作務衣姿の男性の姿が見えた。ひとりは白髪頭の中年の男性、もうひとりは癖のかかった茶髪の年若い男性だ。どうやら奥にある庭木を手入れしているらしい。
 年若い男性がこちらの視線に気付き、振り向く。それから彼はふんわりと笑顔を咲かせ、頭を下げた。アイドルグループにいそうな童顔の、可愛い子犬系という感じだ。見た目の雰囲気からして、だいたい二十代前半くらいだろうか。なんとなく誰かに似ているように感じつつ、光莉は律樹に尋ねた。
「あの人たちは? 常盤家お抱えの……職人さん?」
 使用人のことは全員紹介されたが、庭師は含まれていなかった。
 律樹が振り向き、ああと頷く。少し複雑そうな表情を浮かべた彼に気付き、光莉は首を傾げた。
「一応、君には明かしておこうか。庭師の弟子……長澤(ながさわ)颯太(そうた)――彼は、俺の弟だ」
「え? 弟?」
 弟がいたという話は聞いたことがない。
「異母兄弟さ」
 光莉の脳内にはパーティー会場で聞いた『愛人の子』という言葉が再び浮かんでいた。
 律樹と彼とはなんとなく雰囲気が似ているところがある。同じく異母弟だという雄介からはあまり感じなかったのに。似ている兄弟とそうでない兄弟がいるようなものだろうか。
「以前に勤めていたメイドとの間にできた子らしい。彼は常盤家の人間と距離を置きたがっている。庭師として仕事をして、あまり俺たちには近づかないんだ」
 兄弟なのに仲良くできないなんて寂しいと光莉は思う。だが、彼らの関係性からすると、寂しささえ感じることのない距離感なのだろうか。律樹からは戸惑いの空気を感じる。引き取られてからずっとこの調子だったのだろうか。
(人懐っこそうな感じはするけど)
 あまり触れない方がいい気がして、光莉はそれ以上の追及をやめた。
 母親を亡くして引き取られた律樹にとって、父親が何人もの愛人に子どもを産ませていたことは複雑以外の何ものでもないに違いない。
 かたや常盤の名前を押し付けられるままに受け入れ、かたや名前を与えられることを自ら拒んだ。やんごとなき一族の一員になった律樹と、庭師として仕え続ける颯太とではあまりにも対照的といえる。
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