さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 きっと一緒に過ごすうちに、政略結婚という冷たい言葉のフィルターが和らいで、律樹の心のバリアもほぐれはじめたのかもしれない。光莉も律樹に対して最初に抱いた警戒心は薄れ、彼に信頼を寄せはじめている。このお互いの距離感の変化は嬉しい誤算でもあった。
 光莉はまた過去のことを思い返した。
 小学生の頃、律樹は他の子に比べてひょろっとしていて手足が長く、髪の色は天然の茶色、瞳も色素の薄い色をしていたせいか、閉じられた学校の中で、異質なものを排除しようとする悪い慣習……いじめの対象になりがちだった。
 ある日も――。
『あんたたち、またりっちゃんをいじめてたの? 今日こそ絶対許さない んだから』
『わぁぁ、狂暴女がきたぞー! みんな逃げろ!』
『誰が狂暴女よ!』
 黒や青のランドセルを背負った男子が散り散りに逃げていく。ガキ大将とそのまわりにいた敵兵を追い払ってから、光莉は水たまりに転がっていた茶色のランドセルを持ち上げる。それから、光莉は転んで泥だらけになってしまった少年に手を差し伸べた。
『大丈夫? 水道で流しましょう。私、ハンカチ持ってるから! まったく、あいつら、本当にひどいんだから』
『……ひかりちゃん、いいのに、僕のことなんて放っておいて』
『私がいやなの。りっちゃんが、意地悪される理由なんてどこにもないじゃない。髪の色だって、瞳が薄いのだって個性じゃない』
 外人だ、異人だ、宇宙人だ、と男子が罵っているのを光莉は耳にした。明らかに差別で虐めだ。先生には相談したけれど、大人が必ずしも味方をしてくれるとは限らない。
『それだけじゃないよ。僕はあんまり活発じゃないし、人と接するのが得意じゃないし、読書している方が好きだから。それが気に入らないのかも』
『いいじゃない。趣味は人それぞれだし、私、りっちゃんの話を聞くの大好きよ。今日も、何か読んで聞かせてくれない?』
『……うん。君がいいなら』
『今日はなんていう本を読んでいるの?』
『最後の約束……っていう本』
 それは、幼なじみの男の子が実はあやかし……妖怪で、人ではなかったという話。長く生きているけれど、人に忘れられていくたびに寿命は縮まり、とうとう見えなくなってしまう。最後に会えたのが君でよかった、と告げて消えていく本だった。
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