さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
「ありがとう。割と気に入ってたんだ。っていっても、持ってきてないんだけどね」
「いつか、里帰りしたときに揃えるといい」
 何の気なしに言ってくれた律樹の言葉に、少しだけ泣きたくなった。
「うん」
 光莉は両手を伸ばして靴を抱きしめた。
 いつか、それはいつになるのかわからない。そのことはお互いに口にしなかった。
「だから……それまでは、これを君に」
 律樹がそう言い、トランクの中にあったもうひとつの箱を差し出した。彼がそれを開いて見せてくれる。
 現れた白い靴に、光莉は戸惑う。こちらは明らかに新品だ。街灯に照らされると、まるでガラスの靴のよう。マットな布地に光沢のあるサテン素材が編み込まれているらしい。細身のバックストラップの飾りが清楚な色気を出してくれそうな、素敵な靴だ。
「光莉に似合いそうだと思ったら、いつの間にか手に取っていた。ちょっとした訪問のときとか、パーティーのときとか、使えるだろうし……」
 暗くてわかりにくいけれど、おそらく律樹の顔はほんのり赤い。彼が照れているのが伝わってきて光莉の鼓動が騒がしくなる。
 何気なく思い出してくれたこと、似合うと感じてくれたこと、そして……贈り物に選んでくれたこと。そのひとつひとつ の彼の想いが嬉しくて、胸がじわりと熱くなった。
 ここまできたら遠慮する方がずっと無粋というものだろう。
「履いてみてもいい?」
「ああ。拾ったパンプスのサイズと一緒のものを選んでみたんだが……」
 律樹が差し出してくれた手に 片手で掴まって、それぞれ足を滑らせてみる。それから彼が腰を落として膝をつくと、かかとを支えてくれた。靴は、ぴったりだった。
「よく似合ってる。想像したとおりだ」
 律樹が声を弾ませる。そんな彼を見ていたら、封印しようと思っていた愛おしさが溢れてきてしまいそうになる。
 光莉はふっと息を吐いて、自分自身に八つ当たりするように呟いた。
「参っちゃうな」
 本当に参る。きっと律樹のことだから、光莉が落ち込んでいることも、困っていることもすべてわかった上で、こんなふうにしてくれたのだろう。
 こんなことをされたら、律樹が光莉のことを義務感以上の気持ちで大事にしてくれているのだと、自惚れたくなってしまう。政略結婚なんて幻で、ふたりは本当に恋愛をして結婚したのだと思いたくなる。
「律樹さん、ありがとう。大事にさせてもらうね」
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