さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 何かと光莉のことが気に入らない麻美のことだ。彼女が何かを言ってくることは容易に想像がつく。
「言い訳をする必要なんてないことだろ。あの家に写真立てのひとつ もない方がずっと不自然だ」
 律樹がいつになく語気を強めたことに、光莉は少し驚いていた。
 それに、と律樹は言った。
「君だってひとりでいるお父さんのことも気がかりだろう。せめて、ドレス姿の写真を送ってあげたらいいんじゃないか? 挙式に向けて、試着してみたっていうことにでもすれば、問題ないだろう」
「律樹さん……」
 再会した直後は、律樹のことがわからないと思った。でも、わからないままでいたくないから彼を理解したいと申し出た。けれど、実際に歩み寄ってくれていたのは、律樹の方だった。
 光莉のことを慮ってくれる律樹の気持ちが嬉しくて、どこか肩肘を張っていた光莉の心のバリアがほろほろと崩れていくのを感じていた。
「実を言うと、こっちが本題」
 律樹は懐から取り出した箱を開いて、光莉の目の前に指輪を差し出した。
 夜闇の中でも美しく輝くダイヤモンドに魅入られ、光莉は弾かれたように律樹を見つめた。
「はじまり方は君にとって幸せなものじゃなかったと思う。遅れてしまったけれど、これは今の俺が君に示したい気持ちだから」
 律樹が婚約指輪を用意してくれていたことに、光莉はまた驚かされる。
「一体いくつサプライズを隠し持ってるの」
 泣き笑いみたいな顔になっていたかもしれない。光莉が冗談まじりにそう言うと、律樹の方が苦しそうな顔をする。その表情から、彼の誠意が伝わってきて、どうしようもなく胸が震えてしまう。
 今の彼ならこんなに高級な指輪をプレゼントするくらい容易いことなのかもしれない。でも、用意しなければならないものでもなかった。形式上の夫婦なのだから。
 それなのに、彼は誠実に向き合ってくれた。そのことが何より土砂降りの中にいた光莉の心に傘をさしてくれた。これからはこの指輪が、折れそうになった光莉の戦う剣の代わりに盾になってくれることだろう。そして彼の存在はやはり光莉にとってずっと陽だまりなのだ。
「はめてもいい?」
 光莉はほぼ無意識に頷いていた。
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