さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 身をこわばらせて後ずさりししたその時、部屋の隅からカタリと音がして、その正体がわかった。
(猫……!)
 あのとき、縁側で見かけた猫だろうか。遠くから見ている分にはよかったが近づくのはアレルギーがあるので避けたいところだ。毛が舞っているからか、やはり目が痛くなってきて、肌に発疹が現れはじめていた。急いで部屋から出ようとしたのだが、なぜかドアが開かない。せめて窓を開けようとするもののこちらも開かない。
(どうして、突然ドアが開かなくなるの……)
 呼吸をした際に激しくせき込み、止まらなくなる。目をうまく開けられず、ぜいぜいとした喘鳴が続く中、縋るように必死に窓を開けようとするが叶わない。
(だれか……!)
 窓を叩いて心の中で助けを呼んだ、そのときだった。
 突然バルコニーの方の窓が外側から破られ、光莉は驚く。衝撃を受けた箇所のガラスは粉々に割れている。今度は一体何が起こったというのだろうか。
「光莉さん! そっちにすぐ行くから待ってて!」
 外から声が聞こえてきた。割れた窓の間から覗くと、颯太が手を振っていた。彼は器用に梯子から屋根へ伝い、本当に忍者のようにやってくる。ここは二階とはいえ結構な高さがあるはずだ。
「颯太くん……!」
 しかし危なげなく彼はやってきてバルコニーに到着すると、手に持っていた鋏で窓枠に残ったガラスを壊し、光莉に手を伸ばした。
「光莉さんが必死な顔で窓を叩いているのが見えたから」
 颯太に抱き上げられ、光莉は部屋からバルコニーへ脱出することに成功する。猫もまた開いた場所から出ていくのが見えた。踏み荒らされた部屋の中は散々な状況だ。
「一体、何だったの……」
 唖然としたままその場で立ち尽くす。
「ひどい光景だね。大丈夫?」
「颯太くんがきてくれなかったら、大変だったかも……」
 外の風にあたったら落ち着いてきたけれど、あのまま閉じ込められていたら、最悪アナフィラキシーショックを起こすかもしれなかった。そう考えるとぞっとする。
「黒猫……どこから迷い込んできたんだろう」
「うーん?」
 ふたりで話をしていると、いきなり部屋のドアが大きく開かれた。
「ちょっと、光莉さん、なんてことしてくれたの」
 激昂した麻美がこちらにやってきた。
 意味がわからず混乱している光莉と颯太に向かって、麻美は睥(へい)睨(げい)する。
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