さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 痛いところを衝かれ、光莉は一瞬沈黙した。山谷食品を守るために光莉が選んだ政略結婚のことを意識してしまい、お互いに気まずさから視線を逸らした。
 しばらく沈黙が流れたあと、光莉は今日一日あったことを振り返りながら、口を開いた。
「つまり、現状、私は舐められてるってことでしょ。あの人たちは私が音を上げるのを待ってるのよね。悔しいけど、私には武器が何もない。経験値だって全然足りない。でも、負けたくないよ。律樹さんが、結婚式をしようって言ってくれたこと、本当に嬉しかった。だから……」
「光莉……」
「これは、私の戦いなの。あなたが申し訳なく思うこと自体、違うんだから」
「俺だって悔しいんだ。いない間に君を守ることができなかった。でも、これからは君のためにいくらだって盾になることはできる」
 律樹の言葉を聞いて、光莉は昔のことを思い出していた。
『これは、あたしのたたかいなの。りっちゃんが悪いって思うことなんてないんだから』
『じゃあ、ぼくはきみのたたかいをそばで見守る、たてになるよ』
 剣と盾。ふたりが揃ったら最強だよねと言って、ふたりで泣いて笑った。
「りっちゃん、やっぱり変わってない」
 もう二度と口にすることはないだろうと思っていたはずの名前が、愛しさのあまりにこぼれてしまった。
「変わってないのは、君の方だよ」
 見つめる瞳が甘く滲む。
 やさしく頬に手を添えられ、律樹が近づいてくるのを感じ、光莉は胸を高鳴らせながら、彼のしようとすることを受け入れようとしていた。
 唇同士が触れる直前に、律樹がため息をついた。
「今夜こんなふうに白状するのは卑怯かもしれないけれど、言わせてほしい」
 律樹が光莉の髪をやさしく指に絡め、愛おしそうに見つめてくる。甘い予感にドキドキしながら光莉は律樹の言葉を待っていた。
「ずっと好きだった。君のことが……ずっと好きだったんだ」
 濡れた瞳に心を撃ち抜かれて、細胞が沸騰したのではないかというくらい身体に震えが走った。
「……っ!」
「会えなくなってからも、ずっと君を想っていた。いつか、君を守るために強くなりたいと願っていた。夢にまで見るほどに、ずっと、君に会いたかった」
 律樹が想いを込めて伝えてくれるその言葉のひとつひとつを噛みしめて、光莉は泣き出しそうになるのをこらえながら、彼に問うた。
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