さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 邪魔だてするものは 容赦なく潰せといった修蔵がこのことで何か動きはじめたらと思うと迂闊なことはできない。
(わからない。私はどうしたらいいの)
 パニックを起こした光莉はスマホを握りしめたまま、無意識に自由になれる場所を探していた。冷や汗をかいたせいか背筋がぞくぞくして気持ちが悪い。
 邸からは許可がない限りは出られない。外へ飛び出すことができない。
 人の目を避けられる場所を求めてさまよっているうちに、光莉はいつの間にかまた裏庭の方に出てきてしまっていた。
 尋常ではないくらい息が切れていた。光莉はその場でしゃがみこみそうになり、ふらふらと側にあった柱に手をつく。
「光莉さん、どこに行くの」
 いつもの如く忍びのように現れる颯太に、光莉は度々驚かされてきたが、だいぶ慣れてしまっていた。けれど、今はそれ以上に彼に構っている余裕がどこにもなかった。
「わからない」
 光莉は颯太の顔も見ずに答えた。
「何があったの?」
「自分の愚鈍さが嫌になっていたところ」
 情けなくて、不甲斐なくて、消えてしまいたいくらい。怒りと、憎しみと、哀しみと、どうしようもないぐちゃぐちゃの感情が混ざり合って、ますます息ができなくなりそうになる。
 待って、と颯太に二の腕を掴まれた。
「颯太くん、ごめん。今は放っておいて」
「放っておけない。少し気分転換した方がいいよ」
 押し問答をする気力もなかった光莉は、力のこもった颯太の手に身を委ねるしかなかった。
「ついてきて。誰にも邪魔されないいいところに連れていってあげるよ。そこなら、少しは息もできるはず」
 そういう颯太に頷き、光莉は彼についていく。とにかく今は修蔵の目の届かないところに離れていたかったのだ。
「――ここは?」
 光莉はあたりを見渡す。
「使われなくなった蔵のあたりだよ。老朽化で必要なものは全部運び出されて金庫に保管されたから、中はもぬけの殻の倉庫って感じ。掃除もする必要がない。だから、ここにはめったに人が来ないんだ」
 蔵の向こう側に池があり、繁茂した木々や草花の向こうに光る水面が見えた。裏庭のさらに奥まったところに出たのかもしれない。きっと一周すれば、邸の正門に繋がっているのだろう。
 とにかく今は少しでも遠くにいたい。
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