さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 身体の震えが止まらない。乱暴はしないと言われても、こんな状況では信じられるはずがなかった。
 颯太は光莉から奪ったスマホをこちらに向け、撮影しはじめる。
「やめて! 撮らないで」
「このくらいで勘弁してあげるから静かにして。雇い主に報告しないといけないからね。撮らないわけにはいかないんだ」
 淡々と颯太は言う。
「雇い主って? 一体どういうことなの」
「当主の話を聞いたんでしょ」
「え?」
「律樹(あの人)を跡継ぎにするために、あらかじめ手を回して、あなたの父親の会社、山谷食品が潰れるように誘導したって」
「どうしてそれを知って……」
 光莉は先ほどの修蔵と秘書の話を思い浮かべる。
「僕を忍びみたいだって言ったのは、光莉さんだよ。全部、筒抜けなんだよ、この家ではね」
 皮肉げに颯太は苦笑する。
 たしかに都合よく颯太は現れた。
 まさか、修蔵が颯太にやらせているというのか。光莉の中にまた先ほど爆発しそうになっていた怒りがこみ上げてくる。
「最初に僕に依頼してきたのは、麻美だよ」
「麻美さんが……」
 今まで散々嫌がらせをしてきた麻美のことが脳裏に蘇ってくる。猫の件といい、雄介の件といい、ひとりではなく協力者がいたことは明白だろう。その協力者が颯太だった。颯太が親しくしてくれたのも、光莉を油断させるための罠だったということなのだろうか。助けてくれたことも嘘だったということなのか。
 信じがたい想いで光莉は颯太を見た。
「よっぽど、あなたのことが気に入らないんだろうね。まあ、そりゃそうさ。夫は世継ぎ候補にさえなれず、嫁としても目をかけられず、完全に無視されていた。だというのに、突然やってきたあんたが周りからちやほやされ、夫には愛情いっぱいに愛されている。麻美にはちょっとだけ同情するよ。いないもののように扱われることの虚しさは……僕にもよくわかるからね」
「……っ」
「麻美が僕を使っていることを、当主は知ってる。というか知らないことなんて何もないだろう。わかっていて麻美よりもいい条件を出してきた。僕はただ乗り換えただけ。こういうのこそ光莉さんのいう忍びらしいじゃない。これは僕がこの家で生きるための術なんだよ。あなたをどうにかしたいっていうわけじゃないから、悪く思わないでほしい」
「……その命令に従って、私をここに閉じ込めておくつもりなの?」
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