さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 座敷牢なんていうものがあることにも驚く。なんて悍(おぞ)ましい。
 颯太が虚ろな目でこちらを向いた。その意味を、光莉は理解した。
 どこまでも汚い――光莉は歯噛みする。
 颯太を利用するだけ利用したら捨てるつもりだったのだ。相応の対価を約束してもらったと彼は言った。それは守られるのかもわからない。この邸にいられなくなることだけではなく、彼も何かを背負わされたのかもしれない。
 悪魔は、光莉の目の前に立ちはだかった。
「光莉さん、かわいそうに。こんなところにはいたくないと思っているんじゃないかね。出ていってくれてもいいんだよ。こちらのことは安心するといい。この件はこちらで片付ける」
 修蔵が猫撫で声で語りかけてきて、光莉は嫌悪する。すべて自分の計画のくせに。
「ただし、く れぐれも他言は無用だ。君は賢い女性のようだから、その意味がわかるね? 万が一スキャンダルになりでもしたら、律樹の立場がどうなることか」
 修蔵は自分で光莉を襲わせておいて、すべての罪を颯太に擦りつけようとしているのだ。それだけじゃない。光莉の行動によっては律樹に何かよくないことが起こるかもしれない、と脅しているのだ。
「いくら私の力をもってしても律樹を守り切れるかどうか……そうなれば、我々一族皆が困ることになる。我々は運命共同体なのだから」
 運命共同体、という言葉は、手枷や足枷と同じだけ重たい。修蔵からは見えない刀を向けられている。ともすれば、今にも喉笛を潰されそうな圧力を感じた。
 律樹に何かあったら困る。何も武器を持たない光莉にはどうすることもできない。ただ、この人のことだけは許さない。光莉はそう心に刻んだ。
「律樹さんのことだけは絶対に傷つけないでください」
 こんなふうに光莉が傷つけられたことを知ったら、律樹は光莉以上に傷つくだろう。
 修蔵は不敵な表情を浮かべ、にやりと口の端を引き上げた。
「言われるまでもありませんよ。大事な跡取りなのだからね」
 むしろ修蔵に必要なのは律樹だけなのだろう。颯太の言っていた家畜という言葉が脳裏をよぎる。光莉を陥れ、必要なら子を孕まさせ、そして惨たらしく捨てることに迷いはないのだ。
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