さよならしたはずが、極上御曹司はウブな幼馴染を赤ちゃんごと切愛で満たす
 どうして律樹とはこういう再会のし方しかできなかったのだろう。もしも違う出逢い方をしていたら、普通に幸せな家庭を築けただろうか。今頃手放しで抱き合って喜んでいただろうか。そんなふうにありもしない想像をしてしまう。
 気分が少し落ち着いたあと、光莉は今後の身の振り方をどうすべきか考えていた。
 このままではダメだ。力をつけないと。何も守れない。常盤家の状況を考えたら、これまで以上の地獄が待っているかもしれない。
 愛人の子がコマのように扱われる様を目の当たりにしてきた。数々の仕打ちを考えたら、このままではお腹の子も颯太や律樹のような目に遭うかもしれない。麻美の嫌がらせは続くだろう。何よりも脅威なのは常盤家の当主である修蔵の存在だった。
 赤ん坊を取り上げたあと、光莉だけを追い払うことが容易に想像できた。
(そうはさせない)
 とはいえ、現状、光莉にできることは、ただ隠し通すことだけだ。それも、お腹が大きくなってきてからは通用しないだろう。
 もう幸雄はこの世にはいない。父がいない今、主力商品のブランド名も変わった「山谷食品」を守ることに意味があるのかわからない。脅されていて律樹には話をすることができない。颯太は味方ではなかった。白井にこの件で相談してみるべきだろうか。けれど、もしも話が漏れてしまったらと思うと怖い。完全に安全な場所は常盤家の中にはない。
 どうすべきなのだろう。どうしたらいいのだろう。
 答えはいつになっても出ないままだった。

* * *

 金沢で父の四十九日の法要に出席したあと、もういっそこのまま東京に戻らず逃げ出してしまおうかという衝動を何回やりすごしたかわからない 。律樹は山谷食品の新事業の件 で金沢に残っている。光莉を心配して一旦一緒に戻ってくると申し出てくれたが、妊娠を覚(さと)られたくないという思いもあり、光莉は大丈夫だと断った。
 鎖に繋がれたような気分で東京の邸へと戻る途中、光莉は乗っていたタクシーの窓越しにある人の姿を発見する。
 無視してもいいかと思ったが、なんとなく気がかりになり、タクシーが邸の門に到着する前に、光莉は運転手にここで降ります、と告げた。
 タクシーが去ったあと、光莉は男に近づき、声をかけた。
「変装してるみたいだけど、この邸のまわりをうろうろして平気?」
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