「星をきみにあげる」

黒板の上にあるスピーカーから、ちょうど一年前に流行った有名な歌手の応援ソングが流れ始めた。春は出会いと別れの季節であり、新しい一歩を踏み出す季節でもあるから、そんな人たちの背中を押したいと思って作った、と昔テレビで言っていたのを思い出す。

それと同時に、入学式の時のことも思い出した。

朝早起きをして髪の毛をセットし、真新しい制服に身を包んで、少し緊張しながら学校の正門を潜った。周囲に知っている人はいない。あえて、地元の中学で誰も選ばなそうな進学校を選んだからだ。

俺は、自分を変えたかった。

絶対に変えてやる。

強く思った。

最新のメンズ雑誌を読んで、流行りの髪型や服を調べて、ネットで『高校デビュー やり方』と検索して、満を持しての入学式。

「一ノ瀬翔です。隣町の中学から来ました。趣味はバスケとかサッカーかな。上手くないし、部活にはいるつもりはないけど。誕生日は11月11日、ポッキーの日! だけどチョコがあまり好きではないので、誕生日プレゼントはポテチでお願いします~! 一年間、よろしくね」

なんて。

よく自分でもこんな自己紹介が言えたなと思うけど、これも春休み一日30回は鏡の前で練習していたから、無事に言えたことに安堵のため息をつく。

席に座って周囲の反応を見てみると「あはは」「逆にポッキープレゼントするわ」と笑ってくれている人たちが多く、好印象を与えられた様子だ。

ぱちぱちぱち~と拍手が終わり、出席番号順に自己紹介が続いて行く。

「じゃあ次は、鈴木くん」

先生に名前を呼ばれた鈴木くんは、俯いたまま静かに立ち上がった。


「鈴木です。よろしくお願いします」

それだけ言って、そのまま席に座る。

趣味や前の中学校の名前も言わず、まして下の名前も名乗らないのは、彼が初めてだったので担任もクラスメイト達も反応に困っている様子だった。

「えっと、鈴木くん。他にはないの?」
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