もう一度あなたに恋したときの処方箋
レセプションの準備だけでかなりハードなのに、これ以上複雑にしないで欲しいと憲一は頭を抱えたくなった。
「それに、聞いちゃたんだよ。ふたりが、そういう関係だって話してたの」
岡田部長は照れくさそうにしているが、憲一はますます醒めた目になっていく。
「はあ? なんですかそれ?」
「ふたり仲よさそうに昼間からベッドがどうこうとか、華奢な身体だとか話しちゃって」
もじもじしながら話す岡田を見ながら、憲一の全身から力が抜け落ちた。
どこでそんな話をしたか記憶にないし、誰が噂を流しているのか見当もつかない。
「なにを聞いたか知りませんが、誤解です」
「え~っ⁉ そんな~」
岡田部長は心底残念な顔をするが、こればかりはどうしようもない。
「色々と事情がありまして、彼女が俺を選ぶわけないんです」
部長の誤解は解きたいが憲一はふたりの過去を口にしたくなかったので、あっさりと否定しておいた。
「あ、それだけ?」
部長はその言葉の裏を感じとったのか、パッと明るい顔になった。
「つまり、君の方は彼女を選んでるって訳だね」
再び、岡田部長は憲一の気持ちなどお構いなしに笑顔になった。
「部長! それ以上はマジで怒りますよ」
つい、大きな声が出た。レストランの客がこちらを見ている。
「はいはい」
岡田の返事は口先だけで、憲一の言葉を信じてはいないようだ。
この会話のあと、午後の仕事は憲一にとって集中力を鍛える試練の場となった。
『鞠子が自分を選ぶわけない』
自分自身が言った言葉の呪縛に悩まされ続けたのだ。