離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
 想いを伝えあってから、泰雅に敬語は距離を感じるからやめてくれとい言われている。
 名前の呼び捨てだけは勘弁してもらっているが、やはり長年沁みついた癖というのは抜けない。

「何だか馴れ馴れし過ぎる気がして落ち着かない……の」

「既に夫婦で、今日結婚式を挙げるのに何言ってるんだ」
 泰雅は苦笑する。

「しかもここには俺の子供がいる。これ以上馴れ馴れしい関係はないだろう」

 彼はウエディングドレスのお腹の上に手を乗せる。
 生地が重なっているから、お腹の膨らみはあまり分からないと思うが、整った顔で満足そうに微笑んでいる。

 そう、彼は優しい。しかし純玲が遠慮したり距離を取ろうとすると、逃げることなど許さないという静かな圧を出してくる。
 “君は自分のものだ”と主張し、囲おうとしている――そう思うのは、自惚れだろうか。

「ふふ、そうね。確かに」

 純玲はお腹に添えられている彼の大きな掌の上に自分の手を重ねる。

 囲いがあっても無くてもいい。どちらにしても夫の傍から離れる気はない。
 彼と一緒に一生生きていこうと決めたのだから。

 純玲は念入りに塗られた口紅が取れないように注意しながら夫の頬に軽く唇を触れさせた後、少しだけ勇気を出した。
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