離婚予定の契約妻ですが、クールな御曹司に溺愛されて極甘懐妊しました
 着た覚えの無いバスローブ姿になっている理由、ついでに胸元にある赤い跡についてもひっくるめて考えないことにして、純玲は素早く身支度を整えた。

 よし、と鞄を持ちドアノブに手を掛ける。まずはここから出て、彼には後でメッセージを送っておこう。

(失礼をお許しください、昨日のことはいい思い出にします。だから先生は忘れてください)
 純玲は心の中で謝罪しながらノブを勢いよく引いて――そのまま固まった。

 開いた扉の向こうに長身の男性が立っていた。ちょうどカードキーで開錠しようとドアの前に立ったところだったようだ。廊下の明かりを背にした逆光にも関わらず、彼の際立った容姿ははっきりとわかる。

「……白石(しらいし)先生」
そこにいたのは今一番会いたくなかった人物……昨夜の過ちの相手だった。

「やっぱりな。急いで戻ってきて良かった」
 彼は整い過ぎた美貌で困ったように笑うと長い脚で部屋に踏み入る。
 
 近づく距離に思わず純玲は後ずさる。彼の背後で静かに扉がしまった。

「純玲、おはよう。あとただいま。さあ、昨日の話の続きをしようか」
 口元に笑みを湛えたまま白石泰雅(たいが)は純玲の肩に手を置き、身体ごと回転させるとそのまま室内に誘う。

「き、昨日の話?」
 ナチュラルに部屋に逆戻りしている状況に慌てる純玲に泰雅はサラリと答えた。

「もちろん、俺たちの結婚についてだ」
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