俺様ドクターは果てなき激愛で契約妻を捕らえて離さない
ドリンクカップを持つ手が震えている。
智花さんはイスの背もたれに寄り掛かると足を組み、片手で持っているアイスコーヒーのカップに口を付けた。飲み終えてからテーブルに置き、私のことを睨むように見つめてくる。
「父から早瀬さんが結婚すると聞いて、真っ先に思い浮かんだ相手が成田さんだった。それなのにまさかあなたみたいな普通の事務員だとは思わなくてすごく悔しかった。成田さんだったら早瀬さんのことをきっぱりと諦められたのに」
長い前髪をかきあげて、智花さんが大きなため息を吐く。
「私の言いたいことがわかる? あなたは早瀬さんの妻に相応しくないの。出来損ないの妻なんだから、今すぐに別れて」
出来損ない……。
その言葉に心臓をきゅっと掴まれたみたいに苦しくなる。ふと父の顔が思い浮かび、同じセリフを浴びせられた子供時代を思い出してうまく息が吸えない。
私は医者になれなかった落ちこぼれで、幸也さんの妻としても不十分――つまり、出来損ないなんだ。
「それだけ伝えたかったの。じゃあね」
言いたかったことをすべて吐き出したらしい智花さんがイスから立ち上がる。飲み終えたカップを持ち、ゴミ箱に捨てると、この場を足早に去ってしまった。
店を出ていく彼女の背中を見つめながら、まるで金縛りにあったかのように動くことができなかった。