壊れるほどに愛さないで
「美織、病院終わったら、電話くれる?」

「え?でも病院終わったら、駅から電車乗って、会社行くだけだよ?」

「ダメだよ。連絡は、こまめにしてね。美織に何かあったらと思うと、仕事が手につかないから」

友也のことは、好きだ。

「分かった。じゃあまた連絡するね」

それなのに、こういう友也の心配しすぎる所が時折窮屈に感じて、同棲に前向きになれない自分がいた。その事もあって、私は、友也と交際を続けて社会人になっても、週末に、友也の一人暮らしの部屋にいく生活を続けている。

昨日、私が磨いておいた、革靴を履きながら友也が、ニコリと笑う。

「美織、いつも有難う」

「ううん。友也、気をつけてね、行ってらっしゃい」

「やっぱ、いいな、美織に見送ってもらうの、新婚さんみたい」

友也は、玄関先で、グイッと私を抱き寄せると、唇を塞いだ。軽く触れただけの唇は、それだけでは終わらずに、あっという間に深くなる。

「ンッ……友也……ダ……メ」

友也の胸元を、トントンと軽く突くと、友也の唇は、ようやく私から離れた。

「友也、遅刻しちゃうからっ」

「続きは、夜ベッドでね」

友也は、子供のように、目を細めると、私に手を振って、ようやく扉を閉めた。

「もうっ……子どもみたいなとこあるんだからっ」

そう言葉にしながらも、私の頬は緩む。何気ない友也との日常は、居心地が良くて、友也の全てを包み込んでくれる優しさが心地いい。

このまま、友也と交際を続けて、いつか橘美織になって、友也と家族になる。

この時の私は、未来をそう信じて、疑うことなど何一つなかった。

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