壊れるほどに愛さないで
それから、私たちは、気づけば、図書館で待ち合わせをするようになっていた。

2人で、その日読みたい本を、本棚から持ち寄って、窓辺で並んで本を読む。そうして、読み終わった本を交換したり、感想を言い合ったりしていくうちに、異性である友也に、私は初めて心を開いていった。

毎日図書館で待ち合わせて、一緒に本を読むという友也と私の関係が、半年ほど続いた、その日、少し早い初雪が降った。

『あ、初雪』

図書館から出て、手を伸ばした私の指先に、小さな雪のカケラが、溶けて消えた。

私は、冬が好きなのに、その季節が訪れると何故だか怖かった。そして、こうして雪を見ればとても綺麗だと思うのに、何故だが、涙が出そうなほどに悲しくなる。

『綺麗だけど、雪を見ると悲しくなる』

友也の言葉に思わず振り返っていた。

『え?』

『美織?』

何故だろう。雪をみて悲しいだなんて、同じ事を思う人がいる事を、ただただ不思議に思った。

『私も……雪、綺麗で好きなのに、何故だが涙が出そうになるの……』

『そっか……』

そう呟いた友也は悲しげで、泣き出しそうに見えた。気づけば、降り出した雪が滲んで涙が頬を伝った私を、友也が、ギュッと包み込んだ。

『と、もや……?』

コート越しに、じんと、伝わる男の人の匂いと体温に友也の鼓動が混ざって、どうしていいかわからない程に胸が苦しくなる。心が溶けて消えていきそうになる。

『美織』

低く掠れた声で名前を呼ばれて、気づけば、私は、友也の背中に両手を伸ばしていた。

『好きだよ。美織の心を僕にくれる?』

一瞬、私はただ、友也を見上げたまま、動けなかった。

そう、言葉にされるまで、恋を知らない私は、友也の事は、趣味のあう、居心地のよい異性の友人として認識していたように思う。

『パンジーの花言葉……僕を想って、だよ』

(僕を想って……)

本の世界の王子様やヒーローのような、友也の告白の台詞に、男性経験のない私は、すぐにうまく返事が出来なかった。

『大事にするから。ずっと美織しか見ていないから』

それでも、友也の真っ直ぐな瞳には、嘘も一点の濁りもなくて、私は、気づいたら頷いていた。そうして、友也に半ば押し切られる形で、私達の交際は始まった。
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