壊れるほどに愛さないで
私は、慣れない開脚式の内診台から下りると、下着を身につけ、白いカーテンを開ける。  

丸椅子に座ると、私にエコー写真を手渡しながら、友也の友達の母親だという女医が、にこりと微笑んだ。

「おめでとうございます、妊娠されてますよ。今、二ヶ月で、もう間も無く三ヶ月に入ります。つわりも出てくる頃なので、無理せず、お仕事なさってくださいね」

「つわり……」

「えぇ、食べ物の好みが変わったり、吐き気がしたり、熱っぽかったり、人それぞれ、症状は、さまざまだけど、吐き気がするって問診票に書いてあったから、葉山さんの場合は、それがつわりの症状の一つとして当てはまるかな」

女医は、パソコンにカタカタと私の現在の症状とともに、妊娠週数を入力すると、エンターキーを押した。

「あと二ヶ月もすれば、つわりは治ることが多いからね。赤ちゃんが育ってる証拠だと思って頑張りましょう。また2週間後に診せてくださいね」

「あ……有難う御座います」 

私は、ペコリとお辞儀をすると、手元のエコー写真の中の、小さな丸い命を瞳に映しながら、診察室を後にした。

スマホがポケットで震える。

『美織、どうだった?』

私は、友也からのラインメッセージを眺めながら、お会計を済ませて、クリニックの外へ出た。

友也とは、友也の得意先回りの後、駅で待ち合わせしている。すぐに返事をしなければならないのに、うまく言葉がでてこない。

私は、ゆっくり、ゆっくり駅に向かって歩いていく。一歩、歩くたびに思い出すのは、思い出してしまうのは、友也じゃない。

(雪斗……)

やっぱり、私は、妊娠していた。

友也には、何度か避妊せずに抱かれていた為、妊娠していたとしたら、てっきり友也の子だとばかり思っていたが、今朝の雪斗の言葉に、ひどく動揺している自分がいる。

(この子は……雪斗の子かもしれないの?)

ペタンコのお腹にそっと触れる。

雪斗の言葉がすぐに蘇ってくる。 


ーーーー『俺と結婚しよ』


初めてあったあの雪の日も、雪斗は、私にプロポーズしてくれた。

『もし、またあえたら、おれのおよめさんになって』

堪らなく雪斗に会いたくなる。見上げた冬空から、頬に、ほろりと氷の粒が舞い降りた。

「……ひっく……雪斗……」
< 250 / 301 >

この作品をシェア

pagetop