壊れるほどに愛さないで
「……ま、待って!」

私は、後ろから聞こえてきた声に、安堵のため息を小さく吐き出しながら数秒、間を置いてから桃葉を振り返った。

桃葉は辺りを見渡しながら、すぐに私の目の前まで歩いてくると、私の瞳を真っ直ぐに見つめたまま声を顰めた。

「仕事なくなったら困るの……うち、母子家庭で、年の離れた妹の大学費用を払ってるから……こんなことしておいて、本当に申し訳ないと思ってる。でも」

「分かってます。誰にも言いませんし、このことを公にはしません。約束します」

桃葉は、眉を下げると、緊張しているのか、唾液を飲み込み、大きく深呼吸した。

「あのね……彼の名前は、あたしの身があぶなくなるから、どうしても言えない……。貴方の話を聞いてたら、妹にも何かされるかもしれないし……。ただ、貴方のカルテを調べて、貴方の個人情報やドナーのことを彼に情報として渡したのはあたし。雪斗を……渡したくなくて。見返りに彼から、貴方を引き離して雪斗を私のものにしてあげるからって言われて……今思えば、バカよね。こんな事したって、雪斗が振り向いてくれる訳ないのに……でも……ずっと好きだったから」

桃葉の鞄の中から、小さくバイブの音が聞こえてくる。桃葉はスマホを取りだすことなく、口調を早めた。

「彼だけど、彼は美野里さんとは同じ高校の出身よ。そして、雪斗の大学の写真サークルの27期の先輩。貴方をつけまわして写真を撮ったのも、手紙や電話をしたのも彼だと思う。あたしは……信じてもらえるかわからないけど、盗撮の件以外は、貴方から聞くまで知らなかった。本当に……ごめんなさい」

桃葉は、身を丸める様にして、私に頭を下げた。
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