壊れるほどに愛さないで
一体いつからそこに居たんだろうか。

後ろの境内の方から聞こえてきたヘリウムガスで変えられた声に、咄嗟に振り返れないまま、私の背中は、大きな掌で強く押された。

「きゃっ……!」

身体が一瞬で宙を舞う。

咄嗟に身体を丸めて両手でお腹を庇ったまま、私は石段を踊り場まで一気に転げ落ちた。 

「痛……っ……」

(赤ちゃん……)

身体中が痛い。

転げた時に頭を打ったのか、ズキンズキンと血管が収縮するたびに傷んで、血の匂いと共に頭がぼんやりとしてくる。思考は定まらず、意識は自分の手元から、あっという間に遠ざかっていく。

(……誰、なの……?)

僅かな力を振り絞って見上げた石段の上には、サングラスに黒マスク赤髪の男が見える。


──その瞬間、呼吸は一気に浅く早くなる。


「はぁっ……はっ……はぁっ」

(何?記憶発作?)

──『逃げて!』

どくん、と心臓が波打つと同時に白くぼやけた頭の中に凛とした声が響きわたった。

(今の……声……美野里……さん?)

胸が苦しい。
呼吸ができない。
誰か助けて。

私は片手をお腹に当てたまま蹲ると、もう片方の手で胸元を抑え込む様に握りしめた。
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