壊れるほどに愛さないで
「橘院長には、この事お伝えしていないのですが、僕でよければお伝えしておきますが?」

「いえ、お気遣いありがとうございます。父には、後ほど自分の口から伝えます」

「そうですか。わかりました」

三橋の前という事と、私が自分の心臓の提供者の事をしらないと思っている野田医師は自然に振る舞っているが、自分の妹の心臓をもっている私と美野里の義弟である友也が、恋人同士だという事実をどう受け止めただろうか。

「じゃあ、美織ちゃん、座ったままでいいから、胸の音聞かせてね」

野田医師は聴診器で心音を確認すると、何度か頷きながら、そっと聴診器を私から離した。

「問題ないね。じゃあ、また明日の朝に診察に来るから。今日は、ゆっくり身体を休めてね」

野田医師はいつものようにたれ目をさげると、ふわりと微笑んだ。

「はい。ありがとうございます」

「野田先生、美織の事、宜しくお願いします」

「承知致しました。過度なご心配されなくとも、3日後には退院できると思います。では私はこれで」

野田医師は立ち上がると、頭を下げた友也に一礼して扉に向かっていく。少し離れた場所からずっと立ったまま、こちらを見守っていた三橋が私にこちらに近づくと、ようやく口を開いた。

「美織ちゃん、本当に良かったね、俺も明日からまた担当看護師として宜しくね」

「あ、宜しくお願いします」

「じゃあね」

一重の瞳を細め、ヒラヒラと手を振ると扉を開けた野田医師の後ろについて三橋も出て行く。

すぐに病室は再び静寂に包まれた。
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