壊れるほどに愛さないで
「あ、三橋(みつはし)さん、お久しぶりです」

「美織ちゃんも、元気そうで何より」

三橋昇(みつはしのぼる)は、私と目線を合わせるように、長身を折り畳みながら、黒い短髪に一重の目を、ニコリと猫のように細めた。

三橋は、私が心臓移植の際に、入院していた時の担当看護師だった。年が近かった事もあり、長い入院期間、私のミステリー好きを知って、ミステリー漫画や、ミステリー小説を差し入れてくれたりした。

「定期検診かな?」

「はい、そうなんですけど、まだかかりそうで……」

「うーん、この混み具合だと……確かに今日も長そうだね」
 
三橋は、所狭しと並んだ長椅子に、隙間なく座っている診察待ちの患者を眺めながら、困ったような顔をした。
 
「大丈夫?疲れてない?」

「はい、座ってるだけなので、全然大丈夫です。ただ、そろそろ持ってきた本読み終えちゃいそうで」

肩をすくめた私を見ながら、三橋の視線は、すぐに私の手元へと向けられる。

「珍しいね、美織ちゃんが、ミステリー以外読むなんて」

「あ、たまにはいいかなって……」

友也の事を隠すつもりはなかったが、恋人の部屋から借りてきたと、三橋に説明するのも、おかしな気がして、私はあえて説明しなかった。

「その写真……よく撮れてるね」

「あ……はい」

三橋は、背格好が似ている友也の元カノと私が似ているため、私の写真だと思ったみたいだ。

手元の写真が、上向きになってることに気づいた私は、さりげなく本に挟んで閉じた。

「随分前だけど……その映画、俺も観たよ」

「そうなんですか?」

三橋は、涼しげな目元で少しだけミステリアスな雰囲気がある。雰囲気イケメンって言葉がピッタリだ。

「三橋さん、デートですか?」

「どうだったかなぁ……昔過ぎて忘れちゃったけど。女の子と観たってことにしといてもらおうかな」

「あはは、分かりました」

モテそうな三橋の事だから、きっと女の子なんだろう。私は余計な詮索をせずに、にこりと笑った。

「そろそろ、行かなきゃ、またね、美織ちゃん」

三橋は、形の良い唇を引き上げると、掌をヒラヒラとさせながら、入院病棟へと向かって行った。
< 27 / 301 >

この作品をシェア

pagetop