壊れるほどに愛さないで
私は、三橋の後ろ姿が見えなくなってから、本に挟んだ写真をもう一度眺めてみる。

(うーん……どこかで見たことあるような気もする?)

でも、いくら眺めても、思い出せる名前もなければ、やはり会った事がある訳でもなさそうだ。

(私にもこんな気持ちあったんだな……)

自分に雰囲気が似ているのと、友也の元カノへの小さな嫉妬心なのかも知れない。

友也に昔、彼女が居たことがあっても不思議じゃないのに、その元カノの写真を何度も見ては、あれこれ詮索して、想像するのは、ミステリー好きの私の悪い癖だ。

それに今、私の側にいつもいてくれるのは、好きだと言ってくれるのは友也なのだから。

「葉山さん、葉山美織さん」

予約時間から、2時間たって、ようやく名前が呼ばれる。

(いつか橘美織になるのかな……)

私はマスク越しにクスッと笑うと、診察室へと向かった。



「変わりはない?」 

「はい、大丈夫です」

主治医の野田雅史(のだまさし)先生は、黒斑の眼鏡をクイっとあげながら、微笑んだ。私はブラを外して胸の真ん中の傷跡を見せるように服を捲り上げる。

「うん、いい音だよ」

「良かった……」

多分大丈夫だと分かっていても、こうやって、聴診器を当てられると、やっぱり緊張が勝っていつまで経っても慣れない。

「胸の痛みや、息苦しさは大丈夫かな?」

「はい」

私の言葉に頷きながら、長めの前髪に、黒斑眼鏡の奥からは、少し垂れ目の瞳が覗いている。

たしか、35歳だった筈だ、心臓外科医の中では、次期心臓外科部長の座に着く筈だと、前におしゃべり好きな三橋さんが、内緒だよ、と話してくれたのを思い出す。

私が、4年前に心臓移植を受けた、その時の執刀医が野田先生だった。
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