壊れるほどに愛さないで
「みて友也、赤ちゃん可愛いね。次の検診で性別分かるかもだって。そろそろ名前も考えたいよね」

「気が早いな。でも名探偵の美織なら、検診待たなくても性別分かるんじゃない?」

「もう、分かるわけないじゃん」

美織がいつものように唇を尖らせた。僕はふっと笑った。

「ごめんごめん、たまには美織の怒った顔も見たくなるんだよね」

「え?そうなの? もうしょうがないなぁ」

美織が肩をすくめると、最後のリンゴの一欠片を僕の口に放り込んだ。僕は美織の剥いてくれた最後のリンゴを噛み締めるようにして飲み込む。

こうやって美織と過ごす時間は本当に楽しくて、幸せで愛おしい。美織がそばにいれば僕は本当に何もいらない。美織の怒った顔も泣き顔も、笑顔も僕だけが見つめていたい。

──本当に愛してる。

「ね、友也。退院したら入籍の日にちも決めようね」

僕は眠ってる間に夢で美野里に言われて気づいたことがあった。それは美織の幸せは僕と一緒にいる事じゃないということ。

美織の優しさに甘えて美織の幸せを自分勝手に決めつけて、いつまでも僕が縛り付けてちゃいけない事に気づいた。だから、僕はちゃんと美織に言わなきゃいけない。

「……美織……話があるんだ」

「どしたの? 友也」

美織は首を傾げながら、エコー写真を手帳に挟むと僕の瞳をじっと見つめた。

「うん。美織、この2ヶ月弱僕のそばに居てくれて本当にありがとう」

「全然だよ。私こそ……あの時、私と赤ちゃんを命懸けで守ってくれて……ありがとう。こんな私を……赤ちゃんも友也も選んでくれてありがとね。これからは三人ずっと一緒だよ」

美織が微笑むと僕の掌をそっと握った。僕もすぐに握り返す。このまま美織と生まれてくる子供の隣にずっといれたらどんなにいいだろう。

目覚めてから、ずっと考えて考えて、ようやく決心を固めたはずなのに僕の弱い心はすぐにまた美織の手をこのまま離したくなくなってしまう。

でも、この恋はもう終わりにしたい。
美織の為に。
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