壊れるほどに愛さないで
美織が会社を辞めて2ヶ月経った。

「それにしても本数増えたよな……」

俺は喫煙所で一人煙草を蒸しながら自嘲気味に言葉を吐き出した。家を出る前につけていたテレビからは、三橋昇が逮捕起訴され、美野里の事件についても自白したとアナウンサーが淡々と原稿を読み上げていた。

「美織……どうしてるかな」

三橋が逮捕されたあの日、三橋に橘友也が刺されて発作により気を失っていた美織は、翌日病室で目を覚ましてすぐに橘友也の病室に駆けつけ、つきっきりで看病にあたった。

一時重体に陥った橘友也の容態が今後どうなるか分からない不安定な状況で、さすがに俺も美織に連絡を取りづらく結局美織と二人きりで話すことはできていなかった。

それでも居ても立っても居られず、野田医師より橘友也が目を覚ましたと聞いた一ヶ月ほど前に、美織にラインメッセージを何度か送ったが既読になったまま、結局返事は来なかった。

美織は今頃どうしてるんだろう。俺のことなんか、もうとっくに忘れたのだろうか。

俺は事務所でパソコンを叩きながら空っぽになったままの隣のデスクを眺める。今朝、益川部長から来週に新しい派遣社員が配属されると通達があった。

その言葉にもう美織は二度と此処には戻ってこない事を実感せざるおえない。

「営業いって、直帰します」

俺は益川部長にそう言うと、デスクから立ち上がり事務所扉をあける。すぐに後ろから声が追いかけてきた。

「雪斗くん」

振り返れば和が封筒を差し出している。見れば和の握っている白い封筒に、待野雪斗様と丁寧な文字が書いてあるのが見えた。
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